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    メールマガジン 「語ろうか、手話について」

No. 7                                               2000年 8月19日発行
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  3日遅れの配信となりました。お盆はいかがでしたか?

  ところで、木曜日の朝日新聞をごらんになりましたか? 郵政省がリレーサー
ビスに取り組むという記事が載っていました。リレーサービスとは、聴覚障害
者でも電話が使えるシステムです。その仕組みは、電話の代わりにパソコンの
ような文字入力装置を使います。これを電話局で待機している人が音声に変換
し、音声は文字で送り届けるという仕組みです。
  郵政省の考えるシステムがどのようなものか、詳しいことは、まだわかりま
せんが、これはビッグニュースですね。

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  手話を学ぶことと、英語など他の外国語を学ぶこととで、決定的に異なる点
があります。それは手話を学ぶ者には「通訳を期待される」ことです。英語な
どの外国語は、仕事のため、旅行で話せると便利だから、といったように自分
の能力向上のために勉強することがほとんどです。一方、手話サークルがボラ
ンティア団体とみなされているところからして、手話を学ぶことは聴覚障害者
のため、という面が、どうしてもついてまわります。

  果たして、手話を学ぶ者は通訳になるべきなのか? それは宿命なのか、変え
ていかなければならないことなのか。今回のテーマは「通訳を目指すべきか」
です。

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  皆さんは市や町の福祉センターなどで開催されている初級手話講習会を受講
したことはありますか。現在行われている講習会は行政(県や市)から補助金が
出て、地区のろう協が講師となって開催されているのがほとんどです。講習会
開催の目的は「市民に手話を広めるため」ということになっていると思いま
す。
  しかし、真の目的は「手話通訳者を育てるため」以外にはありえません。行
政にしても、ろう協にしても「広めよう」なんて腰砕けな生やさしい考えで、
わざわざ貴重な時間とお金をかけて講習会を開くはずがありません。
  絶対的に不足している通訳者をなんとかして増やしたい、その思いで講習会
が開催されています。

  でも、受講生はあまりそのようなことを気にかけないようです。私もそうで
した。なにせ、私が初級講習会を受けた理由は、「テキスト代が無料だったか
ら」。これは、全国を見渡しても、いい加減な理由のトップ3に入るのではな
いでしょうか。そんな私でも何年かすると、講習会の手伝いをしているのだか
ら世の中不思議なものです。

  だらだらと書いてきましたが、ここで、講習会を開催する側と受ける側の意
識の違いを示すエピソードをご紹介します。

  一般的な講習会は、最初に挨拶から始まって簡単な手話、そして指文字の練
習を兼ねた自己紹介といった具合に進みます。その時、たいていは「手話を勉
強しようと思ったきっかけ」を聞きます。私は講習会の手伝い要員として、後
ろで聞いていることがありますが、皆さんの理由を聞いていると感心してしま
います。中でも「職場に聾者がいるのでコミュニケーションのために」という
答えは、看護婦を中心に、最も説得力のある回答です。そういう人には「しっ
かり覚えて、職場で使えるようになって下さいね」と思います。
  一方で、職場で活用するわけでもなく、聾者に会うわけでもないのに手話を
勉強している人もいます。「テレビドラマの影響で」なんて人が最近では多い
ですね。

  ちょっと話がそれました。この「きっかけ」の質問ですが、スタッフ側にし
てみれば、額面通り「きっかけ」が聞きたいわけではないのです。講習会のス
タッフが注目している点は、「この人は暇かどうか」ということなんです。
  つまり、
    明確な目的を持っている人は、仕事で使う -> 仕事があるから暇ではない
  となりますが、
    明確な目的がない人は、仕事では使わない -> たぶん仕事を持っていない
    -> 暇そう? それなら通訳者にしてしまおう
という理屈です。昔は、家族構成や仕事の質問なんてのもやりましたが、プラ
イバシーの面から問題があるということで、最近は「きっかけ」を糸口に推測
する方が多いです。

  中には「そんなことはない、うちは手話を広めるために講習会をやってい
る」という所もあるかと思いますが、絶対心の片隅では通訳をスカウトしたい
という気持ちがあるはずです。

  受講者の中には、敏感にその空気を感じ取って嫌に思う人もいます。今回の
テーマの「通訳者になるべきか」と悩む人も出てきます。こういうプレッ
シャーは受講者にとって迷惑なものですから、スタッフ側としては反省すべき
ところです。でも、いくら種をまいても何も育たない畑を耕しているような、
スタッフ側の気持ちも理解して欲しいとも思います。

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  さて、このように嘱望されている通訳者ですが、育てる方も育つ方も前途は
多難です。

  まず、育てる側にすれば、受講者がそう簡単には通訳できるレベルには到達
しないという事情があります。少なくとも2年はかかる。その間に学生は卒業
していなくなるし、女性は結婚して引っ越してしまうし、仕事を持っている人
は忙しくて来なくなる。毎年初級講習会には30人も来るのに1年後にサークル
で見る人は1人いればいい方だ、という有様です。

  逆に、育つ側にしてみれば、簡単な手話はわかるけど通訳するにはまだまだ
勉強しなければならない。でも、色々忙しいからいつまでも勉強していられな
い。忙しくなくても、講習会がずっとあるわけでもないし、サークルは時間が
合わないので行けない。将来的にも、手話通訳では食べていけるほど稼げない
から本腰入れて勉強しようという気にはならない、という具合。

  そんな中、何年かに1人ぐらい、時間があって根気強く手話を身につけた人
が手話通訳者として育っていくという現状があります。

  「語ろうか」の読者の中にはノホホンと講習会を受けている人もいるかと思
いますが、今までの話を読んで、ちょっと怖くなった人もいるのではないかと
思います。でも、どこぞの宗教のように、その人の人生を変えるような無茶な
ことはしないから大丈夫。なんだかんだ言っても、単に目星をつけているだけ
ですから。それに、私は初級講習会は、手話サークル同様、手話に興味を持つ
人への門口としての役割の方が大切だと思います。

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  現在、全国的に、手話講習会のカリキュラムが、奉仕員養成と通訳養成の2
本立てで再構成されつつあります。わかりやすく考えれば、前者が今までの初
級講習会、後者が中・上級講習会です。
  この2つの講習会はわけて考える必要があると思います。初級講習会は興味
のある人なら誰でも受講できるもので、中・上級講習会は通訳になることを前
提にして受講するべきだと考えます。地域の事情があることは十分承知してい
ますが、基本的に中級以上の講習会が単に初級の続きになると、講習会をいく
らやっても通訳者が育たないという結果になり、いつかは行政からの補助金が
カットされることも考えられます。中級以上の講習会は、受講生の側にもそれ
なりの覚悟が必要だと思うのです。
  それに対して、初級講習会は全く知らない人が入りやすい講習会であって欲
しいです。そして、初級が終わったら、手話サークルなどで腕を磨くのが合理
的だと思います。

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  どうも今回は悪い癖が出て、話が分散してしまいましたが、そろそろ締めく
くります。

  今回のテーマ「我々は通訳を目指すべきか」に対して、私の答えは「目指す
必要はない」です。そもそも誰もが通訳になれるはずがありません。言葉を覚
えるのが苦手な人もいるし、本職が忙しい人もいます。通訳はきちんとした仕
事として、そして適正のある人にやって欲しい。誰もが医者や弁護士や総理大
臣になれないように、誰もが通訳になれるわけではないことを、手話を教える
側も、教わる側もわかっておく必要があると思います。

  それに、通訳を目指さずとも、もう一つ手前のレベルがあるはずです。例え
ば、私が以前お話しした「道案内程度の手話が出来る人」レベルはその代表的
なものでしょう。挨拶だけではさすがに何の役にも立ちません。せめて、道案
内が出来るレベルになるまで、1年程度サークルに通って勉強して欲しい。そ
のためには、どんな人でも気軽に初級講習会を受けたり、手話サークルに参加
できる雰囲気が大切だと思います。

  そして、その中から、いつか本当のに通訳者が育ってくれれば、大変嬉しい
ことです。

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  今週は3日遅れとなりましたが、来週は予定通り水曜日に配信予定です。
  では、ごきげんよう。

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