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    メールマガジン 「語ろうか、手話について」

No. 10                                              2000年 9月 6日発行
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  今度の日曜日となる9月10日に東京で「聴覚障害者を差別する法令の改正を
目指す全国集会」が開催されます。医療関係の法律を改正するまでやるので
しょうか? 医師会は手強いから長期戦になりそうですね。

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  「語ろうか」も、ふと気がついたら10回目。区切りがいいときには、私の個
人的な話をしようと思い立ち、運転免許裁判は次回に順延しました。ろうあ運
動の歴史から外れるのもなんなので、情報提供施設の話です。題して「情報提
供施設 in 石川 その1」。

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  情報提供施設をご存じでしょうか? これは法律で定められた聴覚障害者のた
めの施設です。視覚障害者には点字図書館、聴覚障害者には情報提供施設と言
えばわかりやすいでしょうか。

  点字図書館はあちこちで見ることができますが、情報提供施設(以下、情提
と略)はあまり見たことがないと思います。それもそのはず、2000年6月現在、
全国に23しかありません。(この数字も数え方によっては減ります...)
  法律上では、1990年の身体障害者福祉法の改正により情提が盛り込まれてい
ます。その後、障害者プランの運動もあり、全国で情提建設の動きがあります
が、実現しているのは約15の府県です。

  全国の状況は今でも進行中ですので、今回はちょっと落ち着いた石川の状況
を私の経験を含めてお話しします。

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  私が石川県の情提運動に携わったのは石川県手話サークル連絡協議会(略称:
県サ連)の事務局に入ってからです。サークルに入って5年目、何の因果か県サ
連の事務局会議に行くことになりました。その後、しばらくして、県サ連代表
として、情提準備会に行くことになりました。わけのわからないまま、県内
サークルの代表になってしまったのですが、その時はあまり重要性もわかって
いませんでした。

  石川県の情提建設運動は、1990年頃に財団法人石川県聴覚言語障害者福祉協
会(現、石川県聴覚障害者協会)、全通研石川支部、そして県サ連の3団体が集
まって相談したところから始まるようです。その後、1992年になって「聴覚障
害者総合センター設立準備会(略称: 準備会)」を結成。その後の運動の主体と
なっていきます。私はちょうど人手不足の県サ連事務局に入り、言われるまま
に準備会に送り込まれたというわけです。

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  さて、情提の実体は、ハードとソフトの両方があります。ハードは言うまで
もなく建物。ソフトはそこで働く職員や、そして通訳の設置・派遣が関係して
きます。

  1992年当時の準備会はハードに関しての動きがほとんどでした。つまり、土
地の確保、建物をいかに建設するか、という問題に取り組んでいました。

  私が準備会に入る前、新幹線の関係で土地の入手見込みがありました。これ
は北陸新幹線が金沢まで走るという話にからんだものです。その路線が高架状
になるため、高架下の部分を無償もしくは格安で、JRから提供してもらえると
いうものです。騒音の問題はありましたが、阪神淡路大震災でろう団体の拠点
となった神戸のろうあハウス(名称は違うかも)がこの形式なので、特に問題は
ないと思われていました。
  しかし、その後、高架下の土地の管理は鉄建公団に移り、格安の賃貸料とい
うわけにはいかなくなってしまいます。もっとも、私には、事実上、北陸新幹
線の話がなくなり、高架下の土地は全く当てにできなくなった、というように
見えました。今でも北陸新幹線については調査費などが出ているようですが、
本気で新幹線を金沢まで引くとは誰も考えていないように見えますし、あのお
金が一体どこに消えているのか不思議です。

  ちょっと話がずれました。元に戻します。

  さて、全通研石川支部の支部長である岩田さんは、この頃の運動を振り返り

      見込みも甘かったし、知識も足りなかった。反省すべき点は多い。
      しかし、この時の学習がなければ、その後の現実的な運動はでき
      なかった

  と語っているのを私は聞いたことがあります。格安の土地をあてにしての運
動の甘さと、それが消えたときにどうすればいいのかをあまり考えていなかっ
たことにより、運動自体が多少迷走します。その結果、現実路線と無茶な方向
の2つで進んでいくことになります。

  現実路線は、各地域での情提に関する勉強会の開催です。記録を見ると
1993年2月に県内10ヶ所で主にサークルの時間を使わせてもらって、各地域の
ろう協、サークル会員を対象に「情提とはなんぞや」ということを準備会メン
バーが中心に説明して回っています。そして全体会として全日ろう連理事を招
いての学習会を開催しています。
  この結果、情提が石川県のろう運動の焦点になっていること、それがえらく
大変であることが県内の関係者にあまねく認識されるようになりました。サー
クルの単に手話をなんとなく勉強している人にも情提のことを知ってもらいま
した。むしろそう言う人にこそ、一般市民の代表として、知ってもらう必要が
あると考えたのです。情提とは、聾者だけの問題ではなく、社会全体の問題な
のだ、という考えの表れでした。私のような気弱な人間には、このような活動
方法や考え方はかなり新鮮に感じました。

  もう一つのかなり無茶な方向とは募金です。ろう協会員に対して1人10万円
という目標が掲げられました。高齢者からは「情提が建つときには生きている
かわからない。そんな高い募金はできない」、金沢市以外の会員からは「金沢
市に建つ建物になんでそんな金を払わなければならないのか」という意見が出
たと聞きます。それぞれ当然の意見です。この募金の方はかなり無茶だなと個
人的に思っていました。それでも数十人から募金を集めたそうです。ただ、募
金した人の名前は会報誌に公表されますが、会員間の意識をあおるのを避ける
ため、この高額の寄付をした人の名前は通常とは別の枠で載せることになりま
した。このような曖昧さがだんだん増えていき、その後、あちこちで問題が発
生します。岩田さんの反省すべき点は、特にこのあたりを指していると思われ
ます。

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  1993年は、そんなこんなで情提をわかってもらうこと、お金を集めるという
ことの2つが活動の中心でした。でも、いくら集めるといっても、建物と土地
を買うにはとてもとても足りるような金額ではありません。年末には、運動と
してもダレてきていたのも事実です。

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  この頃になると私もだいぶ状況がわかってきました。色々勉強になりました
が、中でも法律を市民運動で実現化していく過程は特に勉強になりました。
  我々は情提を建設するために県や市に要望書を出していきましたが、その根
拠は身体障害者福祉法の27条2項にある次の一文です。

  身体障害者福祉法 第27条
  2 都道府県は、身体障害者更生援護施設を設置することができる。

  なんの罰則もない、義務でもない、この一文だけを根拠に、県に「情提を建
ててくれ」と迫っていくのですから、すごいものだ、と人ごとのように感心し
たのを覚えています。
  実は、この条文の1項は「国は...設置しなければならない」となっていて義
務であることが明白なのですが、準備会内では2項も「できる」ではなく「し
なければならない」と読んでしまっている人もおり、あの迫力は、法律の読み
間違いから出てきているのかもしれないな、と思ったこともあります。結果と
しては、熱意があれば多少の読み違いはなんとでもなるということがわかりま
したが。

  とにかく運動を推進する上で大事なことは、熱意と理屈。特にスタートダッ
シュでは熱意が大切。それを持続するためには理屈(知識)が大切であることを
実感したのでした。

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  1994年、石川県の中西知事が亡くなります。在職期間が日本最長で全国的な
ニュースにもなったので、ご存じの方もいるかもしれません。この後、副知事
だった谷本氏が知事になり、と同時に準備会の方向も現実路線にぐーーと転回
していきます。

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  そろそろいつもの文字数になりました。続きはNo.20までお待ち下さい。

  来週は、今度こそは運転免許裁判の予定です。
  では、また水曜日に会いましょう。

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