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No. 13                                              2000年 9月27日発行
              _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
             _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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  今回は前回の続きで「聾学校で手話を使わない理由」です。

  ところで、ヘッダは先週に引き続き京都の五里さんの提供です。

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- 親の願い

  日本からハワイやブラジルに移民した日系の人達に、孫と話ができないとい
う状況が起きているそうです。日系2世は小さい頃に家族の中で日本語を使っ
ていたので話せますが、3世ともなると、日本にいたこともなく、学校は現地
語(英語など)、友達と話すのも現地語です。よほど2世が家庭内で日本語を使
うようにしていない限り、日本語を使う機会がなくなってしまい、その結果、
3世ぐらいになると日本語を習得できなくなり、おじいちゃんと孫の会話が成
り立たないそうです。これはおじいちゃん、おばあちゃんにはとても寂しいも
のがあるでしょう。

  これと同じ事が聾児の親に起きる可能性があります。聾の子供の親の大部分
は聾者ではありません。もし、子供が手話を話し、親が日本語しか話せなけれ
ば、自然と子供との会話ができなくなります。子供には日本語を話して欲しい
という親の願いが、学校を口話教育に走らせている一因にはなっていると思い
ます。
  もっとも、それが親のエゴではないかと悩むのも親心。このあたりの話は安
直なステレオタイプとしてとらえられない話でもあります。

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- 口話教育への信奉

  校長先生が文部省に従順であるために、口話教育激烈推進校となっている例
があるようです。基本的に文部省は口話教育を推進する立場をとっています。
  世界的には「聾唖児現状改善国際会議」(なんか仰々しい訳ですが、「誇り
ある生活の場を求めて(全国社会福祉協議会)」より拝借)というものがあり、
1878年の通称「ミラノ会議」で口話教育の推進が決定されたのが有名です。伊
東雋祐先生によれば、この国際会議は毎年色々な意見が出て、その時々により
口話か手話かは大きく揺れているそうですので、なぜミラノ会議だけがピック
アップされるのか、その背景はちょっと私にはよくわかりません。でも、この
会議の結論が各所に多大な影響を与えているのは事実です。
  日本では、ミラノ会議の影響と、それから西川吉之介という人が、ろうであ
る自分の子供、西川はま子に完璧な口話を習得させ、これを強力に広めていっ
たことで、口話教育が主流になっていきます。

  とにかく、時代の流れとして、いくつかの要因があって、教育の総元締めで
ある文部省も口話教育を推進してきました。文部省が口話だと言えば、当然、
聾学校でも口話となるのは当たり前の話です。

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  以上、手話が使われない理由を見てきました。どれも決定的ではありません
が、このような理由が複合的にあわさり、結果として口話教育が推進されま
す。しかも、手話が徹底して弾圧されます。

  手話が聾者にとって最も自然な言葉であることは疑いがありません。なぜな
ら、これだけ手話が禁止されていたにもかかわらず、生徒は先生の目を盗み、
友人、先輩後輩の間で手話を使い、脈々と受け継がれてきたからです。これは
口話による日本語よりも、手話の方が使いやすく、そして聾者にとって母国語
であることの証拠だと思われます。

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  では、教育の現場にはドンドン手話を取り入れて、口話を駆逐するべきで
しょうか?

  それも行き過ぎでしょう。口話教育も必要です。なぜなら、社会に出れば手
話は通じないからです。

  確かに手話による教育は可能でしょう。聾の教師を採用したり、大学の聾学
校教員養成課程に手話の単位を組み込めば、数年後には手話による教育は実現
するでしょう。そのような環境で、小さい頃から学ぶことができれば、生徒達
は、手話を見て、手話で話し、手話で考えるようになります。おそらく、学習
の進度も普通校と同じようになるでしょう。

  が、しかしです。それは同時に手話しか話せない人間を育てることを意味し
ています。手話通訳者が十分にいない現状では、そのような子供を社会に出す
のは酷な話です。パソコン全盛の世の中に、そろばんと習字だけ教えて事務職
に就かせるようなものです。もちろん日本にいれば日本語に触れる機会は多い
とは思いますが、1日の大部分を過ごす学校で手話しか使わないとなれば、日
本語を習得するには、個人的な努力が必要になります。それもまた大変なこと
です。

  口話教育は生徒につらいものではありますが、社会に出れば手話が通じない
のも事実です。口話ばかりでは授業が遅れるので、手話を導入して普通校並の
進度を維持することには賛成です。しかし、手話だけを教えて、社会に出すこ
とは、はしごをかけて屋根に登らせておいてからはしごを外すようなもので
す。口話は教育には欠点もありますが、利点も無視できません。
  実際に、手話と口話をバランスよく取り入れようという動きもあります。代
表的なものに「トータルコミュニケーション(略称:TC)」があります。私は研
究誌を読んだぐらいで、余り詳しくないので、詳細は以下のWebページをご覧
下さい。
    http://www.deaf.or.jp/tc/
   トータルコミュニケーション研究会

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  歴史を引きずりつつも聾学校も変わりつつあります。というよりは、変わら
ざるを得ない状況に追い込まれています。その最も大きな要因は、生徒の減少
です。

  医学の発達により聴覚障害を持つ子供が少なくなってきています。また、イ
ンテグレーションと言って、普通校に行かせる親も多くなってきています。そ
の結果、聾学校の生徒が減少し、東京では聾学校の統廃合の動きがあります。

  昔は聾学校としては、口話のできる優秀な生徒を普通校に転校させることを
誇りにしていたところがあります。これがインテグレーションの動きを加速し
ていたのですが、最近では、生徒が少なくなったために、少しでも聴覚障害の
ある生徒を聾学校に呼び寄せようと先生の方が必死になっているそうです。そ
んな中で、現場でも「聾学校の専門性とは何か? 聾学校だからできることに何
があるのか?」を模索しています。半年ほど前に品川聾学校を見学したときに
は、そういう印象を強く受けました。もっとも、手話ができないのに専門性
云々に意味があるのかとか、口話を長年やってきたのは無駄ではないとか、人
により考え方にはかなり違いがあるので、悩んでいるというより、混乱してい
るという方が正解かもしれません。

  ただ、「語ろうか」の読者の皆さんに誤解して欲しくないのですが、聾学校
も地域によって事情は様々であり、一般的な話が難しいということを理解して
下さい。ガチガチの口話主義聾学校はだんだん数が少なくなってきています
が、存在はしています。また、状況は常に変わりつつあります。校長が転勤し
ただけで、えらくあっさり方針が変わるのも学校の特徴です。

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  教育というものは、対象が人間であるだけに難しいです。でも、今までの口
話教育は失敗だった、という評価は定まりつつあるようです。これについて
は、私も思うところがあります。私が注目しているのは、聾学校からの大学の
進学率です。これがどこも異様に低い。筑波付属を除いて、ほとんどが就職組
です。今の高校生の年代が大学へ入る率は50%ぐらいだそうです。私の知り合
いの聾者を見てみると、それほど進学率が高いとは思えません。地方だからと
いうわけでもなさそうです。大学に入れないことは、就職や社会的地位に関係
してきます。今までの口話教育では50%の生徒を大学に送り込める学力はつけ
られなかったという点で明らかに失敗だったと思うのです。

  私の勤め先の親会社は某大手電機メーカですが、そこに勤めている聾者はほ
とんどインテグレーション経験者です。口話に長けていること、それを身につ
けたのは聾学校ではないことを考えると複雑な思いです。また、私と同い年
の聾者で、口話が苦手、文章も書けず、職を転々とし、今ではどこでどうして
いるのやらわからない人がいます。彼は知的障害はなく、単に聞こえないだけ
でした。彼のことを思うと、教育問題の難しさを痛感します。

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  最後に書籍の紹介です。

  教育には、色々な側面があります。どれが正しいかは一概には言えません。
とりあえず歴史的な側面から「わが指のオーケストラ」(山本おさむ著)をお薦
めします。マンガですので、楽に読めると思います。最近、文庫本で再販され
たので入手しやすいでしょう。

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  では、また来週。

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