◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ No. 16 2000年10月18日発行 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』 _/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 秋は手話サークルの行事で土日が潰れていきます。今週末は会社の手話サー クルで京都聾学校といこいの村に研修です。この2つの要チェックポイントを ご存じの方がいたら、教えて下さいね。 今回のヘッダは京都の五里さん提供です。沢山送っていただきましたが、今 回で全部使い果たしてしまいました。しばらくは繰り返して使っていきたいと 思います。他に何か良いヘッダがあればどんどん採用していきますので、皆さ ん、よろしくお願いします。 ---------------------------------------------------------------------- No.20まで手話の言語的な理屈についてお送りします。本当は動く手話を見 ながら説明できるといいのですが、メルマガでは文字だけですので、こちらの 意図を伝えるにも、なかなか難しいものがあります。No.14の反響を見ていて もそういうことを感じました。関東地域なら具体的に手話を交えて話す場を設 けられるかとも思いますが、しばらくは忙しいので、そういうわけにもいかな いでしょう。もし、研修会や何かの大会で見かけることがあれば、そこで議論 をふっかけて下さい。私は関東、主に千葉の全通研行事には参加しているはず です。 ---------------------------------------------------------------------- 今回のテーマは大物です。「日本手話と日本語対応手話」です。おそらく、 今後何回か論じることになるでしょう。今回はその記念すべき第1回目です。 日本手話と日本語対応手話。「語ろうか」の読者の皆さんは少なからず、こ の2つの手話のことを聞いたことがあるのではないでしょうか。日本手話を巡 る議論は、最近ではあちこちで聞くようになりました。私は声を大にして主張 したい。 みなさん、日本手話という言葉を気にしすぎ! ここだけゴシックの太文字50ポンイトで強調したいぐらいです。私に言わせ れば、日本手話と日本語対応手話を巡る議論は、ほとんどが無用のもの。無駄 な労力を使って、残るものは軋轢ばかり。中には訳も分からず日本手話という 言葉を使う人まで出る始末。それがさらにゴタゴタを増長させているようにも 見えます。 せめて「語ろうか」を読んでいる人には、正しい背景と用語の使い方を理解 してもらいたいと思います。わかってしまえば、それほど難しい話でもないの です。今回のシリーズでは、まず日本手話と日本語対応手話という言葉が登場 した背景やその意味を解説し、次にその有用性を述べます。そしてなぜ私が日 本手話という言葉を使うことを否定的に考えているのかを解説します。じっく り読んで、無駄な議論に時間や体力を費やさない知識を得て下さい。 ---------------------------------------------------------------------- 手話に2種類あると言われ出したのは、いつの頃だったか... 少なくとも私 が手話の勉強を始めた10年前には、そういう考え方はありました。私のサーク ルでは「聾者的手話」「健聴者的手話」と呼ばれていました。日本手話、日本 語対応手話という呼称が定着したのは、ここ3年ぐらいの間だと思います。ち なみに、私が聞いたことがある呼び方を整理してみます。 日本手話 : 聾者的手話、伝統的手話、本当の手話 日本語対応手話: 健聴者的手話、手指日本語、同時法手話、初心者の手話、 講習会の手話 この2つの手話は何が違うのでしょうか? まず直感的に、聾唖者が使うのが日本手話で、初心者が使うのが日本語対応 手話と言えます。私が初級講習会で手話を習った頃、講習会で教えられる手話 と聾者同士で話している手話がえらく違うものだと感じたのを覚えています。 そして講習会が終わり、サークルの会員の人から「私は手話はできるけど、そ れは聾者の手話ではない。聾者の手話は、とても難しいよ。」と言われて「聾 者の手話は違う」という思いは、誰もが持っていたのだ、とわかりました。た だ、少なくとも私の周囲では、その違いというものはただ漠然としたもので あって、はっきりどう違うという説明できる人はいませんでした。しかし、少 なくとも、聾者が聾的手話を使うことだけは明らかでした。 そんな中に登場したのが、日本手話と日本語対応手話という言葉です。色々 な場でそのような考え方が発表されていたと思いますが、「はじめての手話」 (木村晴美・市田泰弘著)が一番最初に全国的にこの考えを広めるきっかけに なったと思います。この中では日本手話とシムコムという言葉を使って、2つ の手話を次のように解説しています。 (「はじめての手話」より引用) -------------------------------------------------------- 日本のろう者が使っている手話(日本手話[Japanese Sign Language])は、日本語とは異なる独自の体型を持つ言語です。 (中略)手話学習者を中心に、日本語を話しながら手話単語を並 べていく、という方法が一般的になっていきました。このよう な方法を、英語では「シムコム(simultaneous communication)」 と呼びます。(中略)文法の異なる2つの言語を同時に話すこと など、できるわけがありません。そのため、どちらかが(ある いは両方とも)中途半端にならざるを得ないのです。 -------------------------------------------------------- ポイントは日本手話が聾者の言語であると主張したことです。それまで、聾 者は耳が聞こえない、つまり健聴者と比べて身体的欠陥がある障害者だという 意識が聾者自身にも根強くありました。それに伴い、手話は音声言語の代替で しかない、本来必要ないものなんだ、という考えも根強くありました。それが 聾学校で手話を否定され、町中で手話で話すことを恥ずかしがるということに つながっていくわけです。 しかし、手話が聾者の言語つまり母国語であるという主張は、手話は日本語 や英語同様、言語として一人前であり、それを話す聾者も健聴者と同様人間と して平等である、という考え方に発展し、とてつもない勢いで広まっていきま す。 全日ろう連の昔の資料を読んでいると、似たような主張は出ているのですが この木村・市田両氏の影響と比べると、全くかすんでしまいます。たぶん、ド ラマで手話が取り上げられるといった手話ブームという社会的背景が大きな要 因となっていると考えられます。 ---------------------------------------------------------------------- 歴史の話はちょっと置いといて、言語学的に日本手話と日本語対応手話の違 いについて触れておきましょう。 言語学的な解説はとても単純です。 日本語対応手話とは、文法は日本語だが、表現が手話である言語。 日本手話とは、文法は日本語とは全く異なり、表現も手話である言語。 「表現が手話」というのは声ではなくて、手や腕を使って表現するという意 味です。ですが、手や腕を使っても、それが日本語の文法ならばそれは日本語 対応手話だと言語学では述べているのです。具体例を挙げましょう。日本語と 日本語対応手話、そしてその翻訳である日本手話を並べてみます。(日本手話 への翻訳がいまいちと思う方は、ご指摘よろしく。) 日本語 : とてもたくさんのミカンをもらった。 日本語対応手話 : とても/数多い/ミカン/もらう/した 日本手話 : ミカン/数多い/もらう(ちょっと強め) ここでは文法として語順に注目して下さい。「数多い」を受けるのは日本語の 場合「ミカン」ですが、手話の場合、語順がひっくり返って「もらう」にか かっています。日本語を単語で区切って表現を手話にすれば日本語対応手話に なりますが、日本手話にするためには語順をひっくり返さないとなりません。 これが文法が異なるという意味です。(ところで、手話文の方は語尾がちょっ と変化していますが、方言かもしれないので、今回は特に言及しません。) さて、日本手話と日本語対応手話が違うものであるということはわかりまし た。でも、それはそんなに重要なことなのでしょうか? そう、これはかなり重要な点です。違うことがわかっても、それがたいした ことでなければ、それほど騒ぐことではありません。例えば、トヨタのカロー ラでは、新しい方が丸っこくなって嫌だ大問題だという人もいれば、どうせ4 つのタイヤがついて走るんだから同じものだという人もいます。違うというこ とにどれだけの意味があるのかが問題です。 ---------------------------------------------------------------------- 実際、この違いは言語学では大問題でした。でも、その説明は次回のお楽し みとします。 では、また来週。 ---------------------------------------------------------------------- このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』 を利用して 発行しています。http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000038270) ---------------------------------------------------------------------- ■登録/解除の方法 メールマガジン「語ろうか、手話について」は、以下のURLよりいつでも 登録/解除可能です。 http://www.mag2.com/m/0000038270.htm http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/ ■バックナンバーの参照 http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/ http://jazz.tegami.com/backnumber/frame.cgi?id=0000038270 ■掲示板 http://www64.tcup.com/6411/tokudama.html 補助的な情報を掲載しています。編集者への連絡はMailをお使い下さい。 ■苦情、文句、提案、意見など Subjectに[kataro]を入れて、以下のアドレスまでMailをお送り下さい。 個別には返事ができないかもしれませんので、ご了承下さい。 tokudama@rr.iij4u.or.jp ====================================================================== ○メールマガジン「語ろうか、手話について」(週1回以上 発行) 発行: 手話サークル活性化推進対策資料室 編集: 徳田昌晃 協力: 五里、おじゃまる子(ヘッダ作成) 発行システム: インターネットの本屋さん『まぐまぐ』http://www.mag2.com/ マガジンID: 0000038270 ■意見、文句、提案、投稿は、居住都道府県名と氏名(匿名可)を添えて tokudama@rr.iij4u.or.jpまで送って下さい。 ■メールマガジン「語ろうか、手話について」は、著作権は徳田昌晃に所属し ますが、基本的には転載・複写自由です。有効にご活用下さい。 ======================================================================