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No. 19                                              2000年11月 8日発行
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               _/_/  メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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  先週は石川県の手話サークル連絡協議会の一泊研修会に参加してきました。
  石川県には県内の手話サークル間の相互連絡とろう運動の統括団体としての
「県サ連」という組織があり、ここが年に1回、県内の手話サークル関係者(当
然、聾者も含まれます。)が一堂に集まる一泊研修会を開催します。その内容
は勉強会と、そして夜通しの交流会。おかげで2日目の講演会では寝ている人
もちらほら。しかし、今回は20周年記念ということで、講演会の講師も日本手
話通訳士協会会長の石原茂樹氏ということで、ほとんど寝ている人もいなかっ
たようです。石原先生の話術は相変わらず冴えているなと感じいりました。そ
して私はすでに役員でもなければ、石川県内サークルのメンバーでもないのに
なぜか、スタッフとしてこき使われてきました。客までもこき使う、そのパワ
フルさが石川のろう運動の活力であるような気もします。

  今月末の11月26日には、今度は今の地元である千葉県で手話を考えるプレ
フォーラムが開催されます。今後の千葉の活動のあり方を考える重要な大会の
はずなんですが、盛り上がりはいまひとつ。もし「語ろうか」の読者の方々で
興味がある方がいれば、どうぞご参加下さい。内容は講演会とパネルディス
カッション。今なら2500円で弁当付きです。詳細は私、徳田までお問い合わせ
下さい。

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  今回は、いよいよ、日本手話と日本語対応手話の最終回です。
  まず、前回の続きの言語学的な側面からの手話分類についての疑問を述べて
から補足を含めて、まとめをします。

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  先週は言語学的に日本手話と日本語対応手話の違いの証拠がいまいちだとい
うことを述べました。もう一歩進めて、私は、そもそも、この区別がはっきり
つけられないとことに原因があると考えます。その根拠はちらほらと言語学者
の論文の中でも表れています。

  その1つ目。
  そもそも日本手話というものは、生まれながらの聾者が使う手話だというこ
とだったはずです。
  しかし、手話学会などでの発表を見ていると、昔の人が使う手話を尊重して
はいるもの、最近では日本手話の枠組みでは説明がつかなくなって、そのよう
な手話を新たにホームサインと呼んで区別しています。注意深く読んでいると
どうも、これらの手話は、幼い頃から交流のない高齢者の聾者が使っているも
の、のようですが、結局のところ、古い手話を排除しているように見えます。
  つまり、研究上、都合の悪い手話をホームサインと呼び、日本手話から除外
しているような感じを受けるのです。でもそれって日本手話のことだったので
はないのかな? という疑問が生じます。

  研究者によって、このあたりの言葉の使い方は微妙な差があり、個人的には
鳥越先生が一番的確にホームサインという言葉を使っているように感じます。
ただ、鳥越先生は元々日本手話・日本語対応手話という議論にも一歩引いたと
ころがあるので、ここに引っぱり出すのはちょっと的はずれの面があるかもし
れません。でも、日本でホームサインという言葉をよく使っていて、それが適
切なのは鳥越先生であると思います。問題は、それ以外の人で、部分的にあっ
ているような間違っているようなという発表がよくあります。つまり、ホーム
サインという言葉を使うとき、なんかごまかされているような気がするので
す。このあたりの動向は今後も要注意です。

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  言語学的な2分割論のほころびの2つ目。
  言語の違いというものは、文法だけではありません。語彙、意味も含めて言
語です。例えば「買う」という日本語は様々な意味があります。「大根を買
う」「喧嘩を買う」「腕を買う」など、全て字は「買う」ですが、それぞれ
「お金を払う」「引き受ける」「評価する」という意味です。しかし、これら
の意味を「買う」で表現できるのが日本語です。英語で「買う」を直訳すると
「buy」ですがお金を払う以外の意味は獲得する、買収する、おごる程度の意
味しかなく、日本語の「買う」とは単純な置き換えができないことがわかりま
す。(腕を買うをbuy a armと言ったら臓器移植と間違えてしまうでしょう。)

  私は手話も同じような違いが存在すると考えます。上記の「買う」の例を手
話で表すとそれぞれ違います。これは手話の「買う」が単純に日本語と対応が
つかない、つまり違うことを意味しています。でも、この違いは単語の数だけ
あるんです。中には同じ使い方をする単語もありますし、ちょっとしか違わな
いのもあります。このような違いを日本手話と日本語対応手話のたった2つの
概念で説明するには無理があると思います。

  文法だけの手話の違い談義にいまいちピンとこないのは私だけなんでしょう
か。

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  以上、言語学的な疑問を述べてきましたが、最後に学問的ではありませんが
個人的な1つの疑念を述べます。それは日本手話が「作られている」という疑
念です。

  まず、手話は現在も発展中です。文法も語彙もどんどん変化しています。特
に単語の数は急速に増えていっています。なにもこれは手話に限らず、日本語
も同じで、毎日のニュースでは1つか2つの新語が登場します。ただ、手話は日
本語に比べても、増え方が多いという実感があります。

  それを頭に留めつつも、私には少し疑念があります。日本手話が独自の体系
を持つと主張する人は、自分の頭の中で日本手話の体系を自分勝手に構築し、
それを日本手話として広めていこうとしているように見えるのです。たとえ、
手話がその方向に発展していくとしても、自ら作り出してそれを日本手話と称
するのは、科学的ではありませんし、社会的にもミスリーディングです。学者
として正しい姿勢ではないと思います。

  この懸念は非公式ですが、何人かが表明しています。例えば、日本手話と主
張される手話は、伝統的手話と比べて、異様にうなづきが多いと言われていま
す。うなづきが日本手話であることを主張しているので、自らがそれに近づこ
うとしているのではないか、と勘ぐってしまうぐらいです。

  手話はどんどん進化しています。その役割は手話は話す全ての人が担ってい
ます。あなたの表現がより良ければ、手話はその方向に進化していきます。
  しかし、言語学者はその進化を追っていくべきであって、予測すべきではな
い。ごく一部の聾者が、その人が聾家族で育ったからとても手話がうまいとし
ても、それが手話の全てなんだと考えるのはあまりに科学的ではないと思いま
す。手話が話されている全体の状況から冷静に客観的に手話を見つめるべきで
あって、ある特定の手話を「日本手話」として切り取ってしまうのはいかがな
ものか。ましてや、自分の思う日本手話を助長するようなことをするのは社会
的にはよくても、学者としてどうかな、と思います。

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話をまとめましょう。

  日本国内で話されている手話は様々な種類があります。これは直感的にも明
らかです。少し手話を勉強されている人は、聾者が話す手話が健聴者の話す手
話と違うことに気がつくでしょう。

  さて、手話の違いとは何でしょう? 
  言語学から、日本手話と日本語対応手話という違いが提唱されました。これ
は、ある手話が日本語の文法に沿っているか、否かによって分類する方法でし
た。

  しかし、違いの基準がそれだけとは思えません。言語学だけが正しいわけで
はありませんし、今の言語学も文法しか見ていません。
  日本語をみてみましょう。日本語にも様々な種類があります。地域が違えば
共通語、関西弁、東北便などの方言があります。年代から見ればコギャル言葉
のような違いがあります。敬語という場面により使用目的が異なる違いもあり
ます。さらに、アナウンサー言葉、友達言葉など声色の違いなどを考えると
様々な種類があることがわかるでしょう。

  手話が、これらのどの違いに対応するのか、いまだ研究途中です。はたして
現在、言語学者が違いといっているものが、本当に重大な違いなのか、もしか
すると単に声が高い低い程度の違いなのかもしれません。そのような曖昧な状
況で、たった2つに区別することに果たしてどれほどの意味があるのでしょう
か? 手話の違いとは右か左のような2極端なものではなく、面の幅があるもの
そして、その端はまだ不明確でどこまで広がっているのかもわからない代物で
す。

  そんな中、日本手話以外が偽物であるといった議論は全くのナンセンスであ
り、有害でさえあります。

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  ということで、私は日本手話、日本語対応手話の議論は、あまり科学的では
ないし、その効果も不明であり、弊害が大きいことを強く主張します。
  ここまできて、まだ、あなたは日本手話だの日本語対応手話だの議論します
か? 日本手話うんぬんと言い出す人の主張は本物か、よくよく吟味した方がい
いと思います。理屈もわからず、日本手話がどうのと言うのは、あまり利口な
人の行動とは思えません。私個人は「CL」を言い出す人には、眉に唾つけて聞
きますね。

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  今回のシリーズでは沢山のMailを頂きましたが全然返事ができていません。
そのうち、本編、増刊でフォローしますので、いましばらくお待ち下さい。

  では、また来週お会いしましょう。

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