◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』 _/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ No. 21 2000年11月22日発行 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ いよいよ本格的に寒くなってきましたね。コートを着ている人も多くなりま した。私は寒い方が好きなんで、いい季節になったなぁと思います。魚はおい しいし、汗もかかなくていいし、頭も回るし、なんで冬が嫌いな人が多いんで しょう? でも、風邪だけは嫌ですね。 さて、先週増刊号として、ご意見紹介をしましたが、今後もどしどしやって いきますので、よろしくです。なお、匿名で結構なんですが、誰も彼もが匿名 だと味気ないので、せめてペンネームでもお願いします。 ---------------------------------------------------------------------- 今回は、寄せられたご意見を元にお話を進めていきます。「語ろうか」で取 り上げたいけど、1本文の記事にならなかったテーマについて、偶然にもそれ を指摘するご意見がありましたので、いつもとは変わった形式を取りました。 ご紹介するのは匿名さんのお便り。なお、気になった部分だけ編集してピッ クアップしていますので、この匿名さんの意見がこれで全てとは思わないで下 さいね。 -------------------------------------------------------------- 最近はろう者が手話を教えるのが主流になってきていますが、結局ろ う者は文法が解っていて教えているのでしょうか?? どうしても、健 聴者が補足説明しなければなりません。「すごく都合のいいはなし」 に思います。自分達の母国語を教えるのであれば、それなりに解って いなければおかしいと思うのですが... 語源は?と聞いても知らないとか、先輩が使っていたからとか。ろう 者が教えていると、聞きたくても聞けない、手話が解らないから通じ ないから、結局終わってしまう。でも健聴者が教えるとどんどん質問 があります。「主語は?助詞は?助動詞は?」などなど -------------------------------------------------------------- 「以前は、健聴者が手話を教えていた地域なのかな? 」とつっこみたい所は いくつかあるのですが、今回は2点だけ指摘します。1つは講師の話。もう1つ は語源の話です。 ---------------------------------------------------------------------- 今、手話講習会では聾者が講師を務めるのが普通です。補助に健聴者がつく こともありますし、通訳者だけのこともあります。私の地域では講師は聾者と 通訳者という体制ですね。 講習会の質は講師の力量によるところが大きいと感じます。私が初級講習会 を受けたときの講師はやっぱり聾者で、私はその人を師匠として手話を学んで きましたが、他の年に別の聾者が講師をやった時、たまたま私がその様子を見 学していて「こりゃ、受講生もかわいそうだなぁ」と思うほど、退屈だったこ とを思い出します。 その講師ですが、やっぱり言葉を教えるのは、その言葉を母国語としている 人がいいです。たとえ文法知識が少なくても。 その理由はいくつかありますが、まず文法知識を持った人は、聾者に限らず 健聴者でも、それほどいるわけではありません。受講生にしても、「名詞、動 詞」と言っただけで耳をふさいでしまう人もいます。(個人的な経験ですが、 講習会ではなくてサークル活動の時ですが、私が「動詞の場合は...」と言っ たときに「げぇー、そういうのは勘弁してぇー」といったご婦人の声が、いま だに耳について離れません。)その点では、この匿名さんの地域では、助詞や 助動詞なんて声が出るぐらいだから、とても知的レベルが高い羨ましい所だと は思うのですが、本当にそういう地域は珍しいと思います。そして、残念なが ら、そういう人を満足にさせる聾者は私が知る限り3人ぐらいしかいません。 私が知らないだけでもっと沢山いるとは思いますけど、いずれにしても各市町 村で行われている講習会を満足させるだけの人材はいません。となると、文法 以外の面で補ってもらうのが妥当なところだと思うのです。 それと私は文法重視の方向にはちょっと疑問があります。文法は言語の研究 では有用な道具ですが、一般的にはどうでしょう? 私たちは日本語文法を知ら なくても日本語が使えますし、日本語というものを論じることができます。 また、日本語では国文法だけで4つぐらいあり、それぞれ微妙に違います。 となると、下手に1つの文法に通じてそれだけを絶対視するとなると、かえっ て問題が多いです。例えば、私が一番信用している日本語文法は国文法ではな いので更に異端で、形容動詞というものはありません。こうなってくると、用 言を分類するときに、形容動詞という考え方を出すだけで、国文法の人と激論 を交わさなくてはならなくなってしまいます。 そういうことが手話にも起こるとなれば、手話学習の場に文法を取り上げる のはほどほどにしておいた方がいいんじゃないかなぁ、と思うのです。主語、 述語、修飾語ぐらいがわかっていれば十分でしょう。それ以上知りたい方は、 色々な手話の研究誌にあたってみた方が確実です。 ---------------------------------------------------------------------- 言葉を教えるには、まず何よりも、その言葉に通じている必要があります。 それには、やっぱり健聴者よりも聾者だと考えます。私の実感として、いくら 勉強しても、聾者の言葉を深く、本当に健聴者が理解するのは不可能だと思う のです。いや、世の中広いから、そういう健聴者がいるかもしれない。でも、 数は少ないはずです。それに私自身、しょせん机上の論理程度にしか理解でき ていないなぁ、と思うこともあります。しかし、聾者は違います。小さい頃か ら自分の言葉として手話を話しています。手話を読みとり、手話を話、手話で 考えています。骨の髄まで手話がしみこんでいる人が教える手話は、とても説 得力があります。それは講師の重要な資質として、とても重要です。つまり、 文法などの後天的知識よりも、感覚的にその言葉が話せることが大切です。生 徒が微妙にくどい言い回しをしたときにもっと適切な言い方に直せるとか、全 く新しい概念をその言葉で言えるといった能力が必要です。例えば「原子核の スピンに由来する磁気モーメントの磁気共鳴現象」なんて言葉を手話で表現す るならば、やっぱり母国語として手話を使う聾者の方に分があります。 それに全日ろう連もボーっとしているわけではなくて、指導者講習で講師の レベルアップ化を図っています。私の師匠が指導者講習を受けてから、説明が 理論的にわかりやすくなったことがありました。もう何年かすれば、講習会の レベルがだいぶ上がるんだろうなぁ、と思います。だから、これからは聾者だ から文法知識が不安、ということはなくなるでしょう。 あと一つ、講師は聾者がいい理由を挙げるとしたら、それは体裁上の話。 英語学習の場合は外人教師というのがよくありますよね。たいした指導力も ない人がいるけど、それでも外人教師と言うだけで説得力があります。学習の 場では、そういう雰囲気に由来する説得力というのは大切だと思います。それ に日本語が直接通じないという状況も大事です。言葉を覚えるのに必死になり ますから。 そういうわけで、講師は聾者の方がいいと考えます。 最近はそうでもありませんが、私が以前所属していたサークルでは、手話を 教えるのは聾者に限る、という暗黙の掟がありました。最初の頃は、なんて不 便な決まりだろうと思いましたが、振り返ると、意味がある規則だったな、と 思います。 ---------------------------------------------------------------------- 今日の2つ目のテーマは語源です。 語源にこだわる人がいます。「東京の手話は、なんでLの形を上に動かすの ですか?」といった具合に。新しい手話単語が出てくるたびにいちいち聞く人 がいます。私は、こう答えることにしています。「わかりません。」 というのは、語源というのは微妙に怪しいのです。 「細い」「太い」「話す」といったものの様子や動作を形態模写として表し た手話なら語源は間違いなく、その様子が由来であると言えるでしょう。しか し、地名となると色々な説が登場します。皆さん、佐賀県の手話の由来はご存 じですか? 昔、私は、「佐賀県の手話はかんざしの形から」と言われたのです が、佐賀はそんなにかんざしで有名でしたでしょうか? 正解は「佐賀県出身の 大隈重信が、大学の角帽をかぶっている、その房の様子」なんだそうです。も うひとつ、新潟の手話の由来はご存じでしょうか? 地震という人が多いのです が、地震は最近の話ですよね。それに地震なら関東大震災があります。それを さしおくほど、新潟の地震は大きかったでしょうか? 新潟の人に聞いたところ 2説あるそうです。1つは佐渡の形体というもの。もう1つは、昔、その佐渡の 金山に出入りした船の様子というもの。どちらが正解かはわかりません。 つまり、語源というのは、よくわからないのです。手話というものは、文字 としては残っていません。ですから、語源は本当にわずかな例外を除いて言い 伝えになります。口伝えほど、あやふやになるものはありません。そういうも のをいかにも正しいように伝えるのはいかがなものかと思います。そこで、私 は語源について聞かれたら「わかりません」と答えることにしています。 語呂合わせで覚えられると言う人もいます。語源を記憶する助けにするとい う意見です。それはそれでいいでしょう。ルート2を覚えるのに、ひとよひと よにひとみごろ、というのと同じです。それは理解できます。でも、それに意 味を求めるのは止めておきましょう。 ---------------------------------------------------------------------- 今回は「語ろうか」に寄せられたご意見に反論する形となりました。誤解し て欲しくないのは、この方のご意見が間違っているわけではありません。紹介 していない部分には私も賛同できるものがありました。私にも編集した責任が あります。その点をご了解下さい。 それでは、また来週会いましょう。 ---------------------------------------------------------------------- このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』 を利用して 発行しています。http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000038270) ---------------------------------------------------------------------- ■登録/解除の方法 メールマガジン「語ろうか、手話について」は、以下のURLよりいつでも 登録/解除可能です。 http://www.mag2.com/m/0000038270.htm http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/ ■バックナンバーの参照 http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/ http://jazz.tegami.com/backnumber/frame.cgi?id=0000038270 ■掲示板 http://www64.tcup.com/6411/tokudama.html 補助的な情報を掲載しています。編集者への連絡はMailをお使い下さい。 ■苦情、文句、提案、意見など Subjectに[kataro]を入れて、以下のアドレスまでMailをお送り下さい。 個別には返事ができないかもしれませんので、ご了承下さい。 tokudama@rr.iij4u.or.jp ====================================================================== ○メールマガジン「語ろうか、手話について」(週1回以上 発行) 発行: 手話サークル活性化推進対策資料室 編集: 徳田昌晃 協力: 五里、おじゃまる子(ヘッダ作成) 発行システム: インターネットの本屋さん『まぐまぐ』http://www.mag2.com/ マガジンID: 0000038270 ■意見、文句、提案、投稿は、居住都道府県名と氏名(匿名可)を添えて tokudama@rr.iij4u.or.jpまで送って下さい。 ■メールマガジン「語ろうか、手話について」は、著作権は徳田昌晃に所属し ますが、基本的には転載・複写自由です。有効にご活用下さい。 ======================================================================