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               _/_/  メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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No. 37                                              2001年3月14日発行
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  皆さん、こんにちは。暖かくなったり、寒くなったり大変な今日この頃、い
かがおすごしでしょうか。

  「語ろうか」を始めてから半年。この前お送りした特許の話以外は、手話に
関わって数年もしたら、誰でも当然知っているような話題が多かったと思いま
す。別の味方をすれば、今までなんらかの形で文章化された物ばかりです。
  今回は、たぶん「語ろうか」最初で最後の注目レポートなるであろう、現在
進行形の話です。話題の手話技能検定に迫ります。

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  まずは、状況説明から。

  来週の日曜日3月18日に手話技能検定試験の第1回が開催されることになりま
した。手話技能検定協会が配布しているパンフレットによれば、この試験は「
手話技能検定は手話の技能レベルを測る試験」だそうです。手話技能検定協会
は昨年設立されたNPO法人で、試験はこの協会が主催して行われます。

  パンフレットから試験の概要を引用します。
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    いま手話がブームです。手話奉仕員や手話通訳者養成制度による手話講
  座をはじめ、手話サークル、文化講座、通信教育で手話を習う人が急激に
  増えています。
    その中には習い始めの人からもう何年も手話を勉強してきた、という人
  まで実にさまざま。では、これらの人達は一体どの程度手話ができるので
  しょう? そのレベルを単に年月の長さだけで測ることはできません。
    そのためには手話技能(どれくらい手話ができるか)を示す試験が必要で
  これまでには国家試験である手話通訳士試験と各自治体による認定通訳の
  2つしかありませんでした。
    しかし、国家試験となると合格も難しく、受験資格も必要となります。
  また認定試験は各団体により合格基準がまちまちです。
    それに手話を習う人の全てが通訳を目指しているとは限りません。通訳
  になるわけでもないのに、そうした通訳士の試験を受けるのも、と考える
  人もいるでしょう。そこで誕生したのがこの「手話技能検定」なのです。
    「手話技能検定」は、手話技能の全国統一基準を設けるために作られた
  検定試験。よって受験資格はまったく必要ありません。また通訳試験とは
  異なり、聴覚障害者の方も受験できます。
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  試験の概要を簡単に説明しますと、試験の内容は1級から6級までに分かれて
おり、それぞれビデオを見て、正解をマークシートで回答します。級は手話の
技能レベルに分かれており、下から6級が単語数100程度と指文字が理解できる
程度。5級は単語200語と、それから例文が30程度理解できる程度。4級は単語
500語、例文が100。3級は単語数1000語、例文が300となっております。2級は
単語2000語、例文の制限は無し、1級は単語、例文共に制限無しとなっていま
すが、今回は1級と2級は実施されません。実施されないのでなんなんですが
2級は認定通訳、1級は手話通訳士レベルを想定しているとのことです。また
2級と1級は面接もあるそうです。
  試験は東京、名古屋、大阪で開催され、試験時間はそれぞれ1時間。時間は
ずらして実施されるので、6級から3級まで1日で受験することが可能です。た
だ、受験料がそれぞれかかりまして、6級が1500円、5級が2000円、4級が2500
円、5級が3000円となっています

  すでに第1回試験の申し込みは締め切られましたが、今後、隔月で行われる
らしいので、受験したい方は以下までお問い合わせ下さい。噂では5月は準備
の問題で中止、第2回試験は7月だそうです。

  手話技能検定協会
  103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-15-3 人形町藤和ビル5F
  Tel. 03-5642-3353
  FAX  03-5642-3324
  URL: http://www.shuwaken.org/index.htm

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  このパンフレットにあるように、手話通訳士や県や市の認定登録通訳者試験
の場合、純粋に手話のみを試験するということはなく、福祉制度、ろうあ者の
心理、言葉の知識も含まれています。手話技能検定は、そのような雑多な要素
を取り除き、純粋に手話の技能のみを測るというものです。

  ちなみに、協会の理事長は手話言語学で有名な中京大学の神田和幸先生。副
理事長が(個人的には全然知らない)長井央氏。理事として、NHKの手話ニュー
スで知っている方も多いでしょう、谷千春氏と、元筑波技術短大教授の加藤雄
士氏が就いています

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  さて、手話といえば、全日本ろうあ連盟を抜きには語れません。ろうあ者の
全国組織としては最大規模(とりあえず全難聴は難聴者団体ということで、今
は別個に考えます。)の全日ろう連は、この手話検定をどのように考えている
のかというと、これがなんと「反対」の立場をとっています。なぜか? 以下に
全日ろう連の見解をご紹介します。

  元ネタは事務局長の松本晶行氏名で出されている

   「手話技能検定協会」と「手話検定」なるものについての当面の見解

という文章で、勝手に「語ろうか」に載せちゃって大丈夫かなぁ、とちょっと
思ったのですが、前文に「周知徹底をお願いします」と書いてありますし、著
作権上も引用は合法なので、以下、あまりこの手の問題に慣れていない人でも
わかりやすいよう、解説を加えながら引用します。

  まず、全日ろう連では、手話検定との関わりを一切否定しています。
  (- の付いた文は要約しています。)
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  1. 「手話技能検定協会」も「手話検定(手話技能検定)」も、全日本ろう
     あ連盟と一切関わりがない。
  - 手話技能検定協会からは平成13年1月23日に協力依頼があった。でも、
    事前相談もなかった。
  - 試験は、全日ろう連とは一切関わりがなく、協力する考えもない。
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  とことのように、とりつくしまもありません。なぜ、ここまでかたくなに拒
否するのか? その理由を全日ろう連は次のように述べています。
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  2. 現在の「手話検定」は、全日本ろうあ連盟としては支持できない。
  - いつかはこのような試験が必要とされるかもしれない。しかし、今は「
    手話通訳者登録」「手話奉仕員登録」制度と手話通訳士認定試験の内容
    とレベルを統一化し整備することが先決で、今、このような試験を行う
    ことは現場を混乱させるだけだ。
  - 手話技術と聾者への理解は切り離すことができない。技術のみを追求す
    る考えは支持できない。
  - 検定試験が聞こえる人主導で進んでいることには疑問がある。
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  そして、最後に点字検定についての話が補足として載っています。これは私
も、この通知で初めて知ったのですが、点字検定というものが今年の1月28日
に行われており、これは日本盲人福祉施設協議会が主催しています。これは全
日ろう連によれば「長年にわたる盲人の運動と点字普及運動の歴史と経験を全
国的に結集したもの」だそうです。

  つまり、全日ろう連の立場は、「協力しない、というよりむしろ反対。手話
はの技能のみを試験することは言語同断。将来的にはありえるかもしれないが
それには議論が必要だ」ということです。

  というわけで、全日ろう連は反対。全通研も足並みをそろえる形で反対にま
わっているのが現状です。その一方で、個人的に小耳に挟んだところによると
全国難聴者協会は賛成の立場を取っているそうです。Dproあたりからも意見が
聞きたいところですが、情報が入っていきませんでした。(聞けよ、って? ご
もっとも。でも最近はあまりDproとのつながりが薄いもので、そこまでの暇が
ありませんでした。ごめんなさい。)

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  以上、手話検定を取り巻く団体の意見を見てきましたが、ここで私見を述べ
ます。

  実は手話検定というものが実施されるという話は昨年の10月に私の耳に入っ
てきていて、こういう状況になることは予想していました。ただ、第一回の試
験が3月というのは知らなくて、まだ数年先の話だろうと思っていた私は「か
なりびっくりした」というのが正直なところです。
  それ以外の点、全日ろう連や全通研が反対したり、手話検定協会が無理矢理
にでも試験を実施するだろうということは、予想通りでした。そして、全日ろ
う連の反対意見もほぼ予想通りだったし、それに対する手話検定協会の姿勢も
予想通り。各地の全通研や手話サークルの動きも予想通りで、事前に話を聞い
ていた私としては「まぁ、ほっとけばなるようになるさ。」程度に考えていま
した。

  ただ、1点の気になる点と、杞憂かもしれない問題点が1つありました。

  まず、気になる点ですが、理事の中にある会社の社長が入っていることで、
神田先生がお金に目がくらんでなんか変な考えに変わってしまったのか、と心
配しました。

  杞憂かもしれない問題点とは、介護保険にからんできます。
  先日の全通研討論集会で、東大阪市のサークルから、コミュニケーションサ
ポーターという制度について報告がありました。これは介護保険の訪問調査の
際、対象者との意志疎通が困難な場合に仲介者を連れて行く、というものなん
だそうです。既存の制度の名称だけが変わったのか、新制度なのか、市町村独
自制度なのかがいまだに不明ですが、これは聴覚障害者が対象者の場合に通訳
者を同席させるように思えます。しかし、東大阪市の手話サークルからの報告
では、通訳者が足りない現状を鑑みて作られた制度らしい(推測ばかりですみ
ません。どなたか情報を持っている方は「語ろうか」までご一報下さい。)の
で、どうも、通訳者ではなくて、適当な人を連れて行くような雰囲気です。報
告では、サークルのちょっと手話ができそうな人をスカウトされたので困った
という話でした。

  これとは別に、地元の手話サークルで手話検定の話を聞いた時に、私の心に
ある一つの懸念が生まれたのです。

  それは社会福祉協議会を通じて、手話検定のパンフレットを配っているとい
う現状から、コミュニケーションサポーターとして手話検定の合格者が連れて
行かれるのではないかと言うものです。

  昔々から、「手話ができる = 手話通訳ができる」ではない、と言われてい
ます。通訳とは手話の技術の他に、聴覚障害者を理解しているとか行政施策を
知っているなどの知識や心意気が必要であると言われており、手話関係者で、
これに反対する人はいません。
  しかし、往々にしてこのあたりは一般社会に理解されていないのが現状で、
行政(都道府県や市町村)が、手話サークルに通って少し手話ができる人を通訳
者として採用してしまい、通訳に行っても聾者と話が通じなくて困る。いや、
困る程度ならいいんですけど、病院で誤訳をしてしまう、という事態がたびた
び報告されています。もう、こうなってくると聾者の命に関わる由々しき事態
です。

  そのため、手話サークルに関わるものは、初学者に対して「こういう訳で、
通訳を軽々しくやってはいけないよ」と諭すことになっています。しかし、手
話検定が一般の人を広く対象にしてしまえば、サークルとは関係ありませんか
ら、水際阻止作戦もできなくなってしまいます。これが私の懸念でした。

  あと、技術的な疑問ありますけど、それは来週にします。

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  このように個人的にも色々疑問がわき起こり、各地域でも様々な反応が巻き
起こりつつある今、神田先生が、手話検定について講演を行うという情報をつ
かみました。それがあるのは、電子情報通信学会の福祉情報工学研究会。3月9
日の話です。

  残念ながら、いつもの字数になってしまいました。続きは、来週!

  と、こんなことを書くといかにもスクープのようですが、神田先生はWebの
掲示板ではこまめに説明していますし、呼ばれれば説明はすると言ってました
ので、1週間を待てない方は以下の手話技能検定協会のWebをご覧下さい。
   http://www.shuwaken.org/index.htm

  では、また来週。

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