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               _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』  _/_/
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No. 39                                              2001年 3月28日発行
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  皆さん、こんにちは。いよいよ年度末です。

  色々書こうとしているネタはあるのですが、資料の整理が間に合わず、なか
なかうまく書けずにいます。「えぇ、今まで資料を読むほどしっかりした内容
だったぁ?」と言われると、ごめんなさい、なんですが、ピンとくるような資
料を探したり、さらに読み込んだりしていると、なかなか10Kbyteの文は書け
ないものなんです。
  ということで、今回は愚痴になってしまいます。ごめんなさい。題して「余
計なお世話か、貴重な戦力か」。個人的には深刻な問題なんです。

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  私は手話を勉強するまで聾者と会うことは全然ありませんでした。手話その
ものも、たまたま勉強するまで全然知りませんでした。本当に、手話の世界に
入ったのは偶然としか言いようがありません。親が聾者なわけで無し、友人に
聴覚障害者がいるわけで無し、福祉が専攻であるわけでもありませんでした。
今でも自ら行動しなければ聾者に会うことはありません。かろうじて、職場の
近くに聾者がいますが、仕事が全然違うので通常は会う機会もありません。

  ということで、私と聾者の接点はサークルや全通研の場となります。

  さて、年度末になって、サークルや全通研では役員決めをします。私もいく
つか役員を引き受けることになったのですが、最近やりすぎだなぁ、と思うよ
うになりました。役を引き受けすぎだと思うのです。強硬に断らないと、所属
するサークルや団体の役員を全て押しつけられそうです。そうなってくると、
体力的な問題もありますし、時間にも余裕がなくなりますし、なにより、あち
こちに顔を出すので、自然と色々な所で自分の意志を出して活動し、意見を言
わざるを得なくなります。

  そうなってくると「今の自分は単なるでしゃばりなんじゃないか」と思う場
面が出てきます。以前はそれほど感じなかったのですが、最近、全通研の役員
が自分とあと1人を除いて、通訳者と福祉・教育関係者ばかりであることに気
がついてから、その思いを強くするようになりました。私なんて、たまたま手
話を勉強した、システムエンジニアに過ぎません。(確かに、経歴は珍しいか
もしれませんけど)

  これは「語ろうか」を書いていく上でも思うことがあります。
  最近、自分の手話通訳の未熟さに悩むことがあります。こういう人間が手話
について語っていていいものだろうかと、そういうことをつらつらと考えてい
ます。一昔前なら、私程度の手話会話能力を持たない健聴者が、手話について
公の場で発言するだけで、ろう協あたりから叩かれたものですが、幸いにも、
インターネットそのものが大きくなりすぎてこのメルマガの存在が埋もれてい
るとか、ろう協のすごくえらい人がインターネットにそれほど詳しくないとか
まだ書き始めてから1年もたっていないとかの理由で、あまり目立った批判に
さらされたことはありません。1度、日本手話と日本語対応手話の話が、ある
MLで話題になったことはあるのですが、私自身とても期待した人からの反論が
こちらには届かずじまいで終わっています。(もっとも、日本手話と日本語対
応手話の話は、私の尊敬する言語学の人からの意見を頂いて、多少自分の意見
を修正したいと思っています。)
  とにかく、最近、あちこちで発言したり、意見を求められることが多くて、
それ自体は頼られて嬉しい面もあるのですが、でしゃばりにはなりたくない、
自分を見失っているんじゃないかと悩んでいます。

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  なんだかんだといっても、手話の本質は、聾者が語るべきだと思います。私
が「語ろうか」で語れるのは、浅い経験からのよた話。それと、外国語として
手話を見ていると、意外と聾者でも気がつかないようなことがあるので、問題
提起として出していく、その程度だと考えています。たまに、私に聞けばわか
るんじゃないか、というような問い合わせがきたりしますけど、残念ながら、
お役に立てることは少ないです。

  現在、手話について「健聴者が語る」という状況が、今の日本で見慣れたも
のになってしまっているかもしれません。そういう状況に甘えることなく冷静
に語らなければならないとは常々思っています。
  ただ、手話は聾者の言葉ですから、聾者が語るのが普通なんでしょうけど、
健聴者に伝えるためには、通訳が間に入らなければなりません。それで、なん
となく歯がゆい感じがするということはあります。健聴者にしてみれば、通訳
者自身に語らせればあまり違和感なく、手話の話が聞ける、ということはあり
ます。でも、あまりそれをやりすぎると、でしゃばりになるので気をつけよう
と思うのです。

  言い訳ができるのは、ただ1点。手話通訳が他の言語の通訳と違うのは、聾
者はいくら頑張っても通訳になれないという点です。英語と日本語ではどちら
の言葉を話している人でも、通訳者になれますが、手話の場合、一方的に健聴
者が通訳をするしかない。だからこそ手話通訳は重要です。そして、それを支
える私は慎重でありたいと思います。

  私自身がでしゃばりやおせっかいが嫌いなだけかもしれません。でも、自分
が健聴者であることを再確認するとき、「これはでしゃばりかなぁ、おせっか
いになっているんじゃないかなぁ」と振り返るのは大事なことだ、と思うので
す。知ったかぶりと余計なお世話。これを知らず知らずのうちにやっているの
ではないか心配です。読者の皆さんには、是非、このあたり、私の言動をよく
よく注意してみてもらって、変なことを言っていた時にはすかさずご指摘を下
さい。

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  団体間のあり方についても、思うことはあります。
  私はサークルや全通研のような健聴者団体に所属していますから、ろう協に
対して先走るようなことはしたくないんですよね。そもそも、聾者の問題はろ
う協が担うべきで、健聴団体である県サ連が出ていくことは「でしゃばり」で
もあるわけです。そうなると余計なお世話になってしまいます。「語ろうか」
のNo.30では、県サ連がカリキュラムへの提案をする話がありましたが、あれ
も手話サークルが関係しているから口出しするのであって、いつも何か言うわ
けではありません。財団法人から社会福祉法人への転換も意見は言うけど、そ
の責任と実行するのは県ろう協でした。石川県にいた時は、色々な行事や方針
の決定で、どうやって話を詰めていくか、最終的に誰が責任を持つのか、決め
るのか、そのあたりの線引きが絶妙に上手い人がいたので、私は県サ連の役員
をやっていてとても勉強になりました。

  ただ、千葉に来て、ちょっと戸惑っています。まず、ろう協の人達と会う機
会が少ないこと。こちらの働きかけも少ないが、それ以上にろう協が健聴者に
あまり情報を流さないこと。これではすれ違いも多くなります。かといって、
話がこじれるのも怖いですから、自然と腰が引けてしまいます。石川では確か
に健聴者がガンガン引っ張って成功した例もあるにはありますが、千葉でそれ
をやったら、おもいっきり話がこじれるでしょう。慎重に行くべきか、大胆に
行くべきか。ハムレットの心境です。

  会社の手話サークルでも、同じように経験をしています。会社のサークルは
珍しくろう者が主体ですが、みんな「疲れた」「疲れた」で役員を降りたがっ
ています。そんなんでいいのか? と私は思います。たいした成果もないのに、
そんな簡単に降りるのか? 君たちの先輩が作ってきたサークルを、職場環境を
ぷっりつ切ってしまっていいのか? 後輩を育てなくていいのか? これが、最近
の若者気質なのか?
  もう言いたくてうずうずしている私がいるのですが、今のところ自制してい
ます。でも、私が言っても解決するかどうかは不明です。単なるでしゃばりで
終わるかもしれません。それが一番怖いわけです。さて、どうなることやら。

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  そして、健聴者団体にも不満というか、ムズムズするものがあります。
  例えば、手話サークルの運営について色々な人と話している時に、必ず出て
くる意見が「手話サークルは、手話だけを勉強する場ではない」というもの。
そこまでは私も納得できるのですが、では他に何を勉強するのか、という話に
なった時、聾者を理解するとか、ろう運動とかが出てくる。自分でも確かにそ
ういうことを言うのですが、その時ある種の違和感が心の中にあります。「な
んで、健聴者の私がそんなことまで言うんだろうか? こんなの小さな親切、余
計なお世話なんじゃないか」と。

  私の師匠はとても理解のある人で、そして運動にも熱心だったから、その師
匠が「今度、差別法規撤廃のための署名活動をやることになった。サークルの
皆さんも協力をお願いします」と言えば、私も喜んでサークルの人を巻き込ん
で活動をしました。その一方で、県サ連として活動が低調な、あまり聾者もい
ないような地域のサークルに行って署名活動の話をすることがありました。そ
う言う時に考えるのです。「これは余計なことなんじゃないか?」って。本来
なら、師匠と一緒に来て説明するべきなんでしょうけど、師匠も仕事が忙しい
からいつも一緒に活動できるわけではないし、だいたい今日の私の立場は県サ
連役員じゃないか、県サ連なんて健聴組織だし、それが単独で署名活動の依頼
なんてまずいんじゃないの、と。

  私は、何か事を起こす時はいつもそんなことを考えてます。全然なかったと
は言いませんけど、私は聾者なしでは手話は教えていません。サークルのゲー
ムを考える時も、健聴者と聾者が対等に競えるような工夫を考えてきました。
そういう意味では、この「語ろうか」はかなりの冒険だったのですが、一部の
人から賞賛されこそすれ、あまり批判がないのは私自身、とても心配です。

  自分が手話にたずさわっているのは自己満足ではないかと思うこともしばし
ばです。ボランティアとはそういうものだという意見もありますが、何か、も
うちょっとすっきりとした理屈があるのではないかなと思います。

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  そうそう、迷いといえば、学生時代にもありました。
  学生時代には手話通訳システムの研究をしていましたが、これにもいつも迷
いがありました。ある時、郵政省の研究所であるCRLが工学院大学と共同で、
郵便局窓口で使う手話通訳システムの試作品を作ったという話が日聴紙に載っ
たことがありました。その時の、全日ろう連が「手話はふれあいの言葉だから
こういうのはいかがなものか」という否定的なコメントを出していたのを覚え
ています。私は、なんて時代錯誤なと思ったのと同時に、通訳システムなんて
ものが健聴者のでしゃばりなのかなとも思いました。
  今、様々な手話に関する研究が行われていますが、中には本当にひどいもの
があります。今、工学でも福祉がとても耳に心地よいキーワードになっていて
予算申請で「障害者福祉のため」なんて書くと通りやすいと言う状況がありま
す。ですから、手話の研究もかなり色々なところで行われています。
  でも、果たしてそれを実用化するまで研究するつもりがあるのか、将来福祉
がキーワードにならなくなったときでも続ける気があるのか、本当に聾者の役
に立つと思っているのか。それらの研究は手話を食い物にしているだけなので
はないかと思うわけで、自分も同じではないのか、という疑念がついてまわっ
ていました。

  学生時代は、償いの気持ちで県サ連やサークルに力を入れることがありまし
た。でも、それって本質的な解決ではありませんよね。気持ちはフワフワ迷っ
たままです。

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  そんな中、最近、珍しく本を読んで、いくらか自信も出てきました。
  まず、体験主義は真実ではないと言うこと。聾者こそが手話について語れる
というのは体験主義。それが必ずしも正しいとは限らないと言うことです。ま
ず『「哲学実技」のすすめ」(中島義道著、角川書店)』という本には、こうあ
ります。
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  体験主義が出てきたね。(中略)社長におれたちヒラの気持ちがわかるか、
  という論理だ。(中略)これは疑いなく相手を切り捨てる論理なんだ。相手
  が何を真摯に語ろうと、その言葉を聞かない論理なんだ。(pp.71)
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この本はああいえばこういう的な屁理屈で凝り固まっていますが、この点は私
には救いです。行き過ぎはいけませんが、慎重になら私だって手話を語ってい
いんだ、と思い直してます。

次の本『プロケースワーカー100の心得(柴田純一著、現代書館)』にはこんな
言葉があります。
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  専門的な知識はあっていい。ないとできない。ただ、わかったと思ったら
  わかっていないということだ。(pp.65)
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福祉の専門書で「無知の知」を諭されるとは想定外でしたが、これはどんなこ
とにも共通する理念なのかもしれません。知らないことを知ることが大切だと
言うこと。私は、いつも知ったように語っているかもしれませんが、その先に
知らないことがあることは常に意識しています。私が知らないということは、
他の人にしかわからないのです。知っていることの周囲には常に知らないこと
がとりまいています。これはとても大切な視点です。これからも「語ろうか」
では、この視点を大切にしていきたいと思います。

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  最後に、最近気になることを2つばかり。

  私は手話をきっかけに、色々なテーマを追い続けてきました。とても、率先
して活動してきたとは言えません。そんな中で、今のホットテーマは難聴者と
いう存在です。数で言えば聾者の数倍なのに、社会的な認知度は何分の一。こ
の不均衡さをいかに解消するのか? ちょっと突き詰めたいテーマです。

  もう一つ、活動の主体を手話サークルにおいていると、参加者の意識がまち
まちなことが気になります。あれは単なる手話に興味を持った人の集まりなわ
けです。ろう運動という視点だけではなくて、もっと高い視野に立って考えて
サークルをいかに役立つ団体にしていくか。偽善でない、でしゃばりでない、
そして社会に貢献できる力にしていくか。それを模索しています。

  とにかく、私に残された時間はあまり多くないような気がします。これから
数年は転々とする宿命にあります。その場その場で、自分の持つ知識、時間、
労力を、いかに活用し、社会に還元できるのか。たぶん、5年後の地元の活動
は携わることができないでしょう。それまでに何ができるのか。そして、10年
後でも今のような活動を続けているのか、もっと効率的な方法を発見している
のか、それとも後退しているのか。しかも、でしゃばりなしに、社会全体を下
からウントコショと底あげるできるような貴重な戦力として活動ができればと
思っています。そして、本職のソフトウェア技術者としても働いていたら最高
ですね。

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  どうでもいい愚痴を垂れ流してしまいました。最近調子が悪いのかもしれま
せん。来週は、原稿協力をもらいましたので、久々に気合いを入れて書きます。
乞うご期待。

  では、また来週。

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