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    メールマガジン 「語ろうか、手話について」

No. 40                                              2001年 4月 4日発行
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  みなさん、こんにちは。
  春というのに寒い今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。お花見の季節だ
というのに、千葉では雪も降りました。桜と雪。風流だけど、異常気象なのか
なと思うと、安穏としてもいられません。

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  今回は5回区切りの40回なので、私の昔の話をします。
  先週、健聴者の立場でさんざん愚痴ったのに、今週はなんとその健聴者が主
導で進めてしまった話です。題して「映画 どんぐりの家上映会 in 石川」。
おぉ、ついに、この話が、というぐらい感慨深い思い出があります。

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  まずは「どんぐりの家」について説明します。

  「ふれあいの里・どんぐり」、通称「どんぐりの家」は、入居型のろう重複
身体障害者授産施設です。いきなり難しい用語でしたね。共同作業所はご存じ
でしょうか? 介護福祉用語辞典(中央法規1993)によれば「一般の企業等では働
くことができない障害者の働く場として、障害者、親、職員をはじめとする関
係者の共同の事業として地域の中で生まれ、運営されている作業所。法的に認
められている身体障害者授産施設等と違って、無認可施設のため、公的援助は
少なく財政基盤をはじめ、施設整備、施設運営全般も十分な内容といえないも
のが多い。小規模授産所、福祉作業所などの名称でも呼ばれている。」とのこ
とです。ちょっと福祉関係の公報を注意していれば、市町村に1つぐらいあり
そうなものです。「どんぐりの家」は埼玉にあるそんな共同作業所から始まり
ました。

  なぜ、そのような施設を取り上げるのか? それは、この「どんぐりの家」が
映画化され、私がそれに関わっていったからです。石川と埼玉、手話と作業所
とあまり接点のないのに、なぜそんなことになったのか? 昔にさかのぼってお
話ししていきましょう。

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  そもそものきっかけは、漫画でした。私は漫画はよく読むんです。石川では
本屋が12:00ぐらいまでやっていたこともあって、学生の頃は帰り道にフラフ
ラと本屋によって雑誌を立ち読みして、新書をチェックして、めぼしい漫画を
買って帰るという生活を繰り返していました。この「めぼしい」というのが、
キーワードで、今まで買った物を見ていても、あまり共通点がありません。た
だ、手話関係はたいてい買っています。(元々、そんなに数はありませんが。)
手話関係の漫画は表紙や帯の宣伝文句を見ればわかりますからね。

  でも、「どんぐりの家」は表紙を見ても手話が関係しているとは、わかりま
せんでした。帯を見ても「ビックコミックで大反響を呼んだ話題作、待望の単
行本化。ひとつぶの愛が成長する」と書いてあって、なんかありがちなお涙頂
戴の感動ものかなぁ、と思い、買わずにしばらくいたわけです。そもそもビッ
クコミックはサラリーマンが通勤の時に読んでいるような印象があるので、こ
のビック関係は読んでいなかったので、帯に「話題作」と言われても知りませ
んでした。
  ただ、やっぱり気になるわけで、それを買ったのが1993年秋の話。一読して
いやー、感動したした。内容をおおざっぱに説明すると、ある知的障害を持つ
女の子が生まれます。障害を持つ故に成長が遅く、それが原因で夫婦喧嘩は起
きるし、子供も地域社会の中で色々騒ぎを起こしてしまう。そんな状況の中で
子供が喘息になり救急車で運ばれます。救急隊の人が言います。「大きな声で
名前を呼んであげてください。呼吸困難で意識を失いかけていますから。」で
も、母親は名前を呼べません。心の中で思います。「聞こえないのだ! 呼んで
も、この子は耳が聞こえないのだ!!」知ってか知らずか、救急隊の人は叫びま
す。「圭子ちゃーん!! 田崎圭子ちゃーん!!」すると、突然、今まで喧嘩して
いて、ふてくされていた父親が子供の名前を呼び出すのです。「がんばれ、圭
子、がんばるんだ!!」『この子は生きようとしている、必死にもがきながら息
をしようとする。そして弱く愚かな私達にこの子は訴えかけている。小さな体
に大きな荷物を背負ったこの子は...私達に示そうとしている。せいいっぱい
生きようとしてるんだと...生きてほしい、圭子!! 助かって欲しい!! あなた
と一緒に生きたい!!』女の子、圭子ちゃんは発作を乗り越えます。
  ここまでが1章の話。この後、圭子ちゃんは聾学校に入り、色々な子供達が
出てきて、それぞれの子供や親が色々な問題を持っていますが、共通している
のは子供達が卒業したらどうするかという問題です。それが共同作業所という
夢になります。夢を実現化するために、親たちは手を組みます。様々な人を巻
き込んで、最後にはようやく「どんぐりの家」という作業所を始めることにな
ります。小さな借家からの小さな一歩ですが、それがその後の50人もの人数を
受け入れる施設作りの始まりとなりました。

  第1巻はここで終わります。最初は、これ1冊で終わる予定だったそうで、表
紙には「第1巻」という表記もなく、話も一応きりがよく終わっています。施
設は建っていませんが、希望のある表現で終わってます。1993年9月初版発行
なので、まだ本当の「どんぐりの家」は小さな借家だった頃です。

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  私は本当の「どんぐりの家」は知らず、漫画を読んだだけで、ノホホンとし
てました。大学でコンピュータの勉強をして、帰りに本屋に寄っている人間が
「どんぐりの家」に関係していくは想像もしていませんでしたから。まぁ、手
話サークルには通い続けて、県サ連の事務局員として、広報誌のホッチキスど
めをしていたりはしていましたが。

  その状況が変わるのは、1995年冬に入る頃の話。
  いつも通り本屋に行くと「どんぐりの家 第2巻」が並んでいるじゃありませ
んか。えぇ、あれって終わったんじゃなかったの? と思いながら早速買って読
みました。話は時間がさかのぼり、聾学校を舞台にしたろう重複障害児の教育
がテーマとなっていました。ろう重複というのは、一般には複数の障害を持つ
状態を言いますが、漫画では知的障害と聴覚障害を持つ状態を指しています。
第2巻では、聾学校でろう重複児がどうやってすごしているのか、学校での様
子、先生の葛藤や地域での軋轢、そんな中で育つ子供達の様子が描かれていま
した。どれもこれもがとても心に迫る話でした。

  そして、この第2巻にはチラシが挟んであったのです。オレンジ色の、1枚の
ごく簡単なチラシでした。
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    どんぐりの家、映画化決定 97年全国上映へ
  アジア太平洋障害者の十年 中間年・日本国憲法施行50周年にあわせて上
  映運動を広げましょう。
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  「なんだこれは」と思いました。映画化というのはよくありがちな話でわか
りますが、上映運動って? 配給されないってこと? なんだかわけがわからん、
というのが私の第一印象でした。

  でも、製作協力として、全日本ろうあ連盟、共同作業所全国連絡会が載って
います。協力は小学館。賛助後援として日本障害者協会、全国手話通訳者問題
研究会、全国障害者問題研究会も載っています。誰かが思いつきや洒落で始め
たり、怪しいネズミ講というわけでもなさそうです。

  チラシの裏を読んでみると、つまりは以下のようなことでした。
  1. 映画を作成するために1億円を集める。
     それを1口10万円の映画基金として、1000口集めることでまかなう。
  2. 映画が作成された後には、1口の映画基金は1つの映画上映権となる。
     1つの映画上映権は市町村単位で自由に上映ができる権利となる。
  3. 1回上映するために3万円+総収入の3%払うことでフィルムを貸し出す。
     上映の方法や作業は上映権を持つ者が行う。収益は上記分を除いて、上
     映権を持つものが自由に処分できる。

  つまり、この映画はまだ完成しておらず、その製作費は「上映基金」という
寄付によりまかなう。皆さんも、この話に乗らないか、ということです。

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  私がこのチラシを見て思ったことは「面白いことを考える人がいるな」とい
うことです。でも、それ以上のことは考えませんでした。だって、1000口と言
えば、全国の都道府県47で割れば、1つの県について約20口。人口的に考える
と、金沢というのは全国の1%と呼ばれている地域なので、石川県全体を見てみ
ると10口ちょいが分相応と言うところでしょう。となると、100万円です。100
万円! そんなお金がどこにあるのでしょう? 一時的にとはいえ、回収のめども
つかないお金なのです。

  真っ先に考えたのは県サ連です。手話が関係しているし、私は県サ連の役員
だし、県レベルの活動となれば、県サ連を動かすのが妥当だと考えたのです。
でも、県サ連の予算が、十数万という状態、それも1年間活動すればなくなっ
てしまう状態で100万円なんてお金をひねり出すのは至難の業です。個人的に
ということも考えましたが、学生の分際では10万円なんてお金はどこにもあり
ませんでした。

  そのため、毎月行われる県サ連の事務局会議で、この話を雑談として出した
ように思うのですが、すぐに忘れ去られたように記憶しています。

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  その状況が一変したのが、加賀からの話でした。加賀のサークルの会員が個
人的に10万円の基金を出してしまったというのです。私個人的にも、そして県
サ連事務局も驚きました。とりあえず、本人に話を聞いてみよう、ということ
で、会長と私などの都合のつく事務局員が加賀まで行くことになりました。

  その基金を出したのは吉本弥生さんという人でした。第一印象は普通の人。
私と同世代、背の高さも普通、髪は肩ぐらい。ろう運動の中心人物のようなパ
ワーがにじみ出ている様子もなく、宗教家のような怪しげな感じもしない。と
にかく普通な人。サークルにいても、どこにいるか注意してみなければわから
ないような人でした。
  そこで、基金を出した経緯とか、どうしようか、なんて雑談に近い話をした
のですが自主映画上映会の知り合いがいるので作業上の問題はないと思ってい
るぐらいしか聞き出せず、あとは「はい」「えぇ、そうですねぇ」ぐらいの返
事ばかりで、この話は誰が主体になるのだろうと、漠然とした気持ちになった
のを思い出します。

  今回、この話を語るに当たり、当時の様子を吉本さんにMailで聞いてみまし
た。

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  Q. どんぐりの家の映画上映のことはなんで知りましたか?

  吉本さん:
  小松市の手話サークル「8の会」の会報紙に『どんぐりの家』を読んで号
  泣したことが書いてありました。それが、漫画『どんぐりの家』を知った
  きっかけです。
  その後、コミックを買うようになり『どんぐりの家』がアニメーション映
  画化がされること・自主上映の個人・団体を募ることを書いたチラシが漫
  画の中に折り込まれていて、映画上映のことを知りました。

  Q. 基金を出した時の気持ちは?

  吉本さん:
  石川県でも観たいという強い思いはありましたが自信がなかったので、最
  初は、自分で上映会をしようと思っていませんでした。
  当時、別の映画で自主上映会をした友達がいたので、友達がしてくれない
  かなぁという甘い考えで、上映をそそのかしたところ、「自分でやってみ
  たら・・」という答えが返ってきて勇気を出して、やってみようという気
  持ちになりました。
  基金の10万円は、友達の自主上映会の様子からなんとかトントンでも、元
  はとれるだろうと考えていました。
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  んー、その10万円が普通では乗り越えないんですけど、やっぱり、感動の力
なんですかねぇ。

  こうして、吉本さんの決断と、慌てる県サ連事務局というところから始まっ
た「どんぐりの家」上映会ですが、この後、県ろう協も巻き込んだ大きな運動
になっていきます。

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  そろそろいつもの字数になってしまいました。次はNo.45で。
  いつもの語ろうかは、また来週の水曜日に会いましょう。

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