◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』 _/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ No. 43 2001年 4月25日発行 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 暑かったり、涼しくなったりの今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。総 会の嵐も、一段落。来週のゴールデンウィークが楽しみな人が多いのではない でしょうか。えっ、連休中も仕事ですか? それは失礼しました。 現在、「語ろうか」の原稿も品切れ状態。なんとか連休まで持ちこたえよう という感じです。ということで、今週は気楽なテーマをつらつらと書いていき ます。それで、突然ですが、「脳」の話をします。 といっても、なんで手話と脳が関係しているのか、想像もつかない人がいる かもしれません。逆に、当然すぎると思う人もいるかもしれません。というこ とで、少々長い前置きをお許しください。 ---------------------------------------------------------------------- 脳というと、右脳、左脳の話が酒の肴にされたりします。右脳は創造性に関 係しているとか、男は左脳が、女は性は右脳が発達しているとか、そんな話を 聞いたことはありませんか? とりあえず、その典型的なWeb Pageを見つけたの で、参考までに。これはコンピュータ周辺機器メーカーのI/Oデータのコラム です。 http://www.iodata.co.jp/sohot/enjoy/spot/work/no4_nou/nou_1.htm もう1つ、脳に関する話を扱っている文献をご紹介しましょう。今となって は、入手がかなり難しいと思いますが、「D」という機関誌の1994年7月31日号 にも、脳の話があります。「ろう者の手話が読み取れないのは貴方へ、貴方は 手話を右脳で覚えていませんか?」というタイトルがついています。手話は言 語だから左脳で覚えているはず、という話です。 んー、でも、脳ってそんな単純なものではないんですよね。部品は単純です けど、構造は複雑。それが脳です。 I/Oデータのコラムも途中までは納得できます。機能分担がある、優劣があ るわけではない、というあたりまではいいんですが、その後の、脳を鍛える話 になってくると、なんか馬鹿げてきます。体の筋肉と違って、繰り返し使えば 発達するというわけでもないんですよね。単純にして超超超複雑な臓器、それ が「脳」。研究対象としてはすごくおもしろいのですが、一歩踏み誤るととん でもない結論が飛び出してくるので油断なりません。 ---------------------------------------------------------------------- さて、こうして脳の話ができるのは、私も学生時代には脳に興味を持ってい た一人だったからです。子供の頃から、人間の命は心臓ではなくて、脳で決ま ると信じていました。だから、心臓死より脳死の方が人の死として納得できる 方です。心臓死後の臓器移植はOKで、脳死後の臓器移植が駄目なのはどうにも 納得がいきません。もっとも、私は臓器移植自体に否定的な立場ですが。 それはさておき、大学の学部時代は色々な分野に興味を示し、目移りばかり していた私ですが、大学院入学時に言語に的を絞りました。なぜ言語かと言え ば、言語が脳と密接な関係を持っていることに気がついたからです。 元々、私が大学で研究したかったのは、脳の保存です。小さい頃から持って いた漠然とした死に対する恐れから、なんとかしてコンピュータの中で生き延 びられないか、ということを24歳ぐらいまで本気で考えていました。肉体を 100年以上維持するのは、きんさん、ぎんさんを見ていてもかなり無理があり そうなので「それなら脳だけでも保存できれば、生きていることになるじゃん そうだ、脳をコンピュータに移植すればいい」と考えていたのです。24歳ぐら いまで。 単純に考えれば、脳は電気信号を保存しておく入れ物にすぎません。ですか ら、コンピュータに移植は可能だと考えたいたわけです。24歳ぐらいまで。 ただ、それだけなら誰かがやっているはずで、いまだにそれが成功していな いのは、脳のどこの部分に重要な情報が入っているかわからないからだと考え ました。生きるために最も必要な情報はどこにあるのか? それを言語だと私は考え、脳における言語現象を解明し、それをコンピュー タに実現すれば、そこに私の人格をコピーできると考えたわけです。そうすれ ば、スイッチを切らない限り死なない、いえ、スイッチを再び入れれば生き返 ることになると考えたわけです。24歳ぐらいまで。 最近「ARMS」という週間少年サンデーに連載されている漫画で同じようなこ とが述べられているので、とてもびっくりしたのですが、あれはちょっと詰め が甘いです。簡単に内容を紹介すると、脳の情報を全て量子コンピュータ(こ れの説明は省略。次世代のすごいコンピュータと期待されているものです。) に保存し、体は完全な機械、つまりサイボーグとして作り上げることで、死な ないで、とても強い戦士(戦争のお話なので、どうしてもぶっそうな話になり ます。)を作るというものです。これは2000年秋ぐらいに連載されたものです が、少年向けということで、わかりやすいのですが、そう単純にはうまくいか ないのです。 なぜなら、コンピュータには「記憶」は移植できても、「意識」を移植する ことがまだできないからです。少し別の話ですが、クローン計画というものが あります。全く同じ遺伝子の人を作り出す研究ですが、遺伝子が同じことは、 同じ人間ができるわけではありません。クローン人間ができたとしても、体だ け同じで、精神は全く異なる人ができあがることでしょう。なぜなら、精神は 育つ環境に大きく影響されるからです。ある人のクローンを作っても、それは 全く別の人格です。これに気がつけば、そう簡単にARMSのサイボーグが作れな いことがわかります。 私も諦めがついたのは25歳を越えたあたりで、その頃には手話と言語の関係 をコンピュータで処理する研究をしていました。諦めたというのも、なんとな くわかってきたことがはっきりしたからです。言語は、道具であって、それ自 体はなんの意志も持たないことに。伝送され、変換され、蓄積されるデータ自 体は、それほど重要ではなかったのです。狙うべきは、データを生成する意識 を担う部分であったのに、私の見当が外れたことに遅まきながら気がつきまし た。 意識は脳の中央部にある松果体にあるとか言われていますが、時はすでに遅 く、私が身につけたのは医学ではなく情報処理技術でした。今でもコンピュー タの中に知能を実現することを諦めてはいませんけど、しばらくはお休み中で す。 ---------------------------------------------------------------------- 話が逸れるついでに、もう少し、漫画の話をします。 1997年に出版された、士郎正宗という漫画家による「攻殻機動隊」という漫 画は、もうちょっとリアルに脳とコンピュータの話をしています。この漫画の 世界では、サイボーグは限りなく生命体と機械が融合した状態で、脳を機械に 移植するなんてのはごく通常の技術となっています。しかし、個人を識別する のは脳の中にある特殊な情報「ゴースト」と呼ばれるもので、これがあるもの は能動的に行動でき、ないものは単なるあやつり人形、つまりロボットとして 動くだけだというのです。ただ、攻殻機動隊の世界では、ロボット(サイボー グ)も精巧になっており、ゴーストがあるかないかは、外見からは全然判断で きないぐらいになっています。さらにゴーストはネットワークに接続すること で、体を遠隔操作することもできるので、体が人間の形をしていることにはあ まり意味がなくなっています。 そんな混沌とした状態でも、ゴーストというものは重要なキーワードで、こ れにより人間と機械は別のものであるとされています。 自分を意識することこそ人間である証(あかし)、我考える故に我あり「コギ ト・エルゴ・スム」と、昔の哲学者、デカルトは言いましたが、「ゴースト」 は、我々の「意識」に該当する存在ではないかと思います。 さて、そんな世界でも、電子のネットワーク内で生命体が誕生するという事 件が起こります。何もないはずの情報から、意識が誕生する、これは大事件で す。この先は未刊なのでわかりませんが、最近の漫画は、ちょっとした研究よ りずっと思索的なので恐れ入ります。 意識の誕生を大事件にするあたり、攻殻機動隊作者の士郎正宗の卓見がある と思います。偶然にも、この漫画の初版出版の頃に、私もそのあたりを考えて いました。そして、意識、攻殻機動隊でゴーストの移植が、そう簡単にはでき ないことに気がついたのは、漫画を読んでから、もう少しドタバタとあがいた 後でした。 ---------------------------------------------------------------------- 諦めがつかずにあがいた理由は、多重人格という存在を知ったからです。ダ ニエル・キイスによる「24人のビリーミリガン」という本は1人の人の中に複 数の人格が現れる病気を描いたお話です。実話を元にしているそうで、その後 症例の報告が相次ぎました。これが本当なら、人格が脳の中に現れたり、消え たりしているわけで、まさに、コンピュータの電源を入れたり切ったりしてい るようです。人格の保存ができる証拠ではないかと考えたのです。 ただ、私は医者ではないので、深く追求はできなかったのですが、多重人格 は、どうやら意識が複数あるわけではなく、1つの脳が複数の表現者を内在し ているだけのようです。 ---------------------------------------------------------------------- というわけで、1997年も終わり頃には、なんとなく意識の保存にも諦めがつ き、脳内の言語について考えていました。具体的には、脳内の言語について、 手話を切り口に色々考えていました。 これ以上、与太話をしていると、皆さんに愛想を尽かされてしまいそうなの で、マッドなサイエンスに興味のある方は、個別にお問い合わせしてもらうと して、言語と脳と手話の話に戻します。 ---------------------------------------------------------------------- 私の見当が外れたと言っても、何千年もかけて人間は「言語」を作り上げて きました。その構造や現象を観察しているだけでも十分に面白い物でした。脳 の働きには記憶、処理、認知、学習などがあると言われていますが、言語はま さにその全てを網羅した上で、物理構造とは別の論理構造があることに興味を 持ちました。つまり、神経は医師免許を持っていないと調べることはできませ んけど、理論的構造ならコンピュータ上のシミュレーションで実証できるとい うわけです。でも、英語や日本語では色々やりつくされていて、下手なことを 言うとやけどしそうだし、それに私は10年以上勉強しているのに英語がよくわ からない。でも、別の言語と日本語の比較をすることは、言語の特性をとても よく理解できる手法です。 そこで、目をつけたのが手話です。手話と日本語を比較し、その差異を見て 手話の構造を調べることで、脳の働きを解明していこうと考えたわけです。 もっとも、今考えると、これは後から付けた理由で、本当は研究のテーマに 困って、手話を取り上げただけかもしれません。なぜなら、手話は研究生活を する前から勉強していたのですから。 ---------------------------------------------------------------------- ありゃりゃ、もういつもの字数になってしまいました。連休前ということで (どういうことや??)お許し下さい。 では、また来週。 ---------------------------------------------------------------------- このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』 を利用して 発行しています。http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000038270) ---------------------------------------------------------------------- ■登録/解除の方法 メールマガジン「語ろうか、手話について」は、以下のURLよりいつでも 登録/解除可能です。 http://www.mag2.com/m/0000038270.htm http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/ ■バックナンバーの参照 http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/ http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000038270 ■掲示板 http://www64.tcup.com/6411/tokudama.html 補助的な情報を掲載しています。編集者への連絡はMailをお使い下さい。 ■苦情、文句、提案、意見など Subjectに[kataro]を入れて、以下のアドレスまでMailをお送り下さい。 個別には返事ができないかもしれませんので、ご了承下さい。 tokudama@rr.iij4u.or.jp ====================================================================== ○メールマガジン「語ろうか、手話について」(週1回以上 発行) 発行: 手話サークル活性化推進対策資料室 編集: 徳田昌晃 協力: 五里、おじゃまる子(ヘッダ作成) 発行システム: インターネットの本屋さん『まぐまぐ』http://www.mag2.com/ マガジンID: 0000038270 ■意見、文句、提案、投稿は、居住都道府県名と氏名(匿名可)を添えて tokudama@rr.iij4u.or.jpまで送って下さい。 ■メールマガジン「語ろうか、手話について」は、著作権は徳田昌晃に所属し ますが、基本的には転載・複写自由です。有効にご活用下さい。 ======================================================================