○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
                _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
               _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』  _/_/
              _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
No. 44                                              2001年 5月 2日発行
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

  ゴールデンウィークに突入しました。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

  前回が「脳の話 その1」なので、今回は「その2」となるべきなんでしょう
けど、都合により別のテーマに差し替えます。ご了承下さい。その2はNo.46に
なる予定です。今回のテーマは「ドラマが手話に与えた影響」です。

----------------------------------------------------------------------

  今クールでは、「新・星の金貨」が始まりました。前回の「星の金貨」は、
いわゆる手話ブームを引き起こして有名ですが、今回はかなり世間でも冷静な
受け止め方をされているようです。テレビ雑誌を見ても「手話」のことより、
直前になって主役を降りた鈴木あみと、代役の星野真里の話ばかり。あらすじ
などを見ても、聴覚障害の「ち」の字も見あたりません。これを手話が世間に
馴染んできたとみるべきか、それとも前回話題にしすぎて世間の腰が引けてし
まったとみるべきか。微妙なところです。

----------------------------------------------------------------------

  映画に手話が初めて登場するのは「語ろうか」のNo.28で紹介したとおり、
「名もなく貧しく美しく」です。昔を知る人によれば、その時に、第一次手話
ブームが起きたそうです。色々議論はあるのですが、第二次は前回の「星の金
貨」の時だという説が有力です。というのも、1985年に「名もなく貧しく美し
く」のドラマ版放送時が二次ブームだという説もあります。でも、社会的な影
響力という面からは、星の金貨が第二次手話ブームであったことは疑いはあり
ません。

  私は、その数年前から手話の世界に入ったので、ちょうど運良く、ブーム前
とブーム後の様子を見ました。ドラマの影響はこんなにすごいのか、とびっく
りしたことを覚えています。

  そのびっくりしたことは、後々話すとして、この頃にどんな手話を扱ったド
ラマがあったのかを調べてみました。すると、すでに1991年ぐらいに2時間ド
ラマで聴覚障害者を取り上げたドラマがあったようです。が、私は見たことが
ないので、省略して、一連の第二次手話ブームを巻き起こしたドラマを列挙し
ておきます。

  - アイシテイルと描いてみた  1992年放送 2時間ドラマ
    2人の女性の恋の話。主人公は長谷川真弓という人だそうですが、私の記
    憶が確かなら、その会社の同僚であり、友人が中山美穂のはずです。その
    中山美穂が聴覚障害者で、あまり手話を使わず、口話が中心でした。それ
    が、このドラマの鍵となります。あらすじは、中山美穂役の女性が、ある
    男性を好きになるのですが、話せないから告白ができない。それで、主人
    公が仲介するのですけど、男性は主人公が好きで、結局、中山美穂がふら
    れるというものだったと思います。その仲介する場面で、主人公が男性の
    気持ちに気づいてしまい、中山美穂の気持ちとは違うことを伝えて、まだ
    男性の気持ちを知らない中山美穂が『違うよ、そんなことを私は言ってな
    いよ。』と訴えるのですが、話せないので、それが男性にはわからないと
    いう場面があります。それが強烈に印象に残っています。主人公は、その
    後、夏目漱石の「こころ」みたいな友を裏切ることの後悔で悩むことにな
    ります。障害をネタに使うという点では、あまり感心しませんが、脚本と
    しては、うまいなと思います。個人的にはなかなかよくできたドラマだっ
    たと思います。あまり注目されなかったし、ほとんどの人の記憶にも残っ
    ていないドラマでしょうけど。

  - 星の金貨     1995年放送  シリーズ形式  総集編もあり
    続・星の金貨 1996年放送  シリーズ形式  完結編は1997年に放送
    酒井法子演じる聴覚障害者、いわずとしれた野島ドラマ。内容は恋愛もの
    と分類するのでしょうけど、脚本家が野島伸司ですから、少々ぶっとんだ
    ところがあります。聴覚障害者が看護助手をするところとか。ま、それは
    さておき、事実上、このドラマが第二次手話ブームの火付け役となりまし
    た。当時は色々な物議をかもしだしました。手話の世界の方では、手話が
    下手だの、手話を見てないのに会話が通じているだの、批判が多かったで
    すね。でも、世間は「手話とはこういうものなのかぁ」とまじまじと見て
    いたのだろうと思います。まだ、町中で手話を使うと奇異の目で見られて
    いた頃ですから、その目が興味へと変わっていったのは、このドラマの影
    響が大きいと思います。今では、酒井法子はすっかり別の仕事が忙しいよ
    うですが、共演した西村知美は、たまに手話の本なんかで見かけます。

  - 愛していると言ってくれ  1995年 シリーズ形式
    豊川悦司演じる聴覚障害者の画家と、常盤貴子の恋愛もの。星の金貨の二
    番煎じなどと言われていたのですが、こっちの方が現実的で、手話もうま
    かったという人が多いですね。手話と言うよりも、純粋に恋愛ドラマとし
    て受け入れられて、なかなかの視聴率を得たと記憶しています。結末が知
    りたくなるドラマとして完成度は高いのでしょう。私はあんまりこういう
    ドラマは好きでないので、話題についていくためだけに見ましたけど、あ
    まり面白味がよくわかりませんでした。北川悦吏子は、このドラマの脚本
    で一躍脚光を浴び、後々、キムタクと常盤貴子の大ヒットドラマ「ビュー
    ティフルライフ」を書いています。

  - 君の手がささやいている 1997年 2時間ドラマ
    毎年、続きが作られており、2000年に4回が放送されている。
    コミック「君の手がささやいている」を原作とするドラマです。博文役に
    武田真治、美栄子役に菅野美穂。どちらも「なんか違う〜」という声が多
    い中、毎年放送されるところを見ると、それなりに人気があるようです。
    すでにドラマの中に手話を取り入れることが定着したということも実感し
    ます。

  代表的なドラマを4つあげました。1995年、皆さんは手話の世界に入る前で
したか? それとも後?

----------------------------------------------------------------------

  ドラマがきっかけとなった手話ブームですが、まず初級手話講習会への応募
者の激増という形で現れます。今まで20名定員を満たすのがやっとという状態
の講習会が、200名以上の人が受講したいと言ってくるわけです。隣の市では
30倍ということもあったようです。えらい騒ぎです。
  でも、そんな人達が10週間の講習会終了後、生き残っているのが7割程度。
手話サークルに入ってくるのは半分。手話サークルを3年続ける人が2、3人。
通訳にまでなるのは1人いるかいないか、というのが現状です。がっくりして
いる関係者は多いでしょう。今でも手話講習会の受講者は多いようですが、手
話を話せるようになる人はごく一部というのが正直なところです。

  石川県では、第二次ブームの直前に、障害者国体があって、手話コンパニオ
ンという、手話が話せる道案内ガイドを1年間で数十人を育てるということが
ありました。今思えば、手話ブームの前触れみたいなものです。短大生の若い
生きのいい人達が(なんておじさんな表現なんだ... ごめんなさい)手話講習会
を受講したのですが、結局、ほとんどガイドの役割を果たすほどには上達せず
に、その後、手話にたずさわっている人は、いないようです。

  ブームというのが、うまく活用できればいいんでしょうけど、なにぶん、そ
の人数の多さと初心者の活気に振り回されて終わる、という状態でした。そん
な中でも、何人かは現在、通訳者として活躍している人もいますから、ブーム
が全て悪いとは思いませんけど、振り回されないように冷静に対処することが
肝要です。それを思い知らされました。

----------------------------------------------------------------------

  さて、再び、ドラマの話に戻しましょう。

  私の知る範囲ではあまり話題になっていませんが、NHKで放送されているER5
でも聴覚障害者が出てきています。ERは緊急救命室、医者と患者の物語で、緊
急医療の現場を通して、様々な人生模様を描いていくドラマです。アメリカで
は現在でも大ヒット中で、出演料は映画並みということでも有名です。

  さて、ERに出ている聴覚障害者ですが、それは、準主役級の医師「ベントン
先生」の子供です。この子はベントン先生の恋人の子として生まれたばかりで
すが、検査の結果、聴覚障害を持つことがわかります。それで、ベントン先生
は、専門医と相談します。子供の聞こえの状態、今後の状態が専門用語を交え
て話されます。この専門用語の混ざり方がドラマの魅力なんですが、わかりに
くいのも正直なところ。その中に、とても印象的な場面があります。以下、
ちょっと引用します。

(以下、ベントン先生を「べ」、相手の専門医を「専」と示します。)

ベ: 人工内耳の移植で重度の難聴患者が聞こえるようになったそうですね。
専: しかし、この手術は残存聴力を完全に奪い去ってしまう。
ベ: でも手術して聞こえるようになるなら、それでいいじゃないですか。
専: この場合は医療品局の基準に当てはまらないんだ。もっとリスクの低い治
    療器具がある。補聴器だ。
ベ: 新しいデジタル式の?
専: 同時に言語療法を施す。
ベ: あれはどうです、あの、手話は?
専: 聴力と言語訓練の方が先だと思うよ。
ベ: そうですか、手に入れる手続きは? デジタル補聴器を。

  わずか1分程度の会話ですが、この中にドラマ作りの基礎力が日本とアメリ
カでえらい差があることを思い知らされます。確かに、日本で放送されるのは
アメリカのドラマの中でも特に面白い物ばかりであるのは承知していますが、
過去の日本のドラマでも、このレベルに達しているものはありません。

  何に感心したかって、あれだけろう文化だのと障害者の権利が声高に叫ばれ
ているアメリカなのに、ERでは、まず親の立場として、率直に「聞こえれば、
それが一番いいに決まっているでしょ」という意見が出てきます。日本なら、
これだけでも批判されそうだし、自主規制しそうです。だめ押しが人工内耳の
話です。聴覚障害を撲滅する気か、なんて過激に批判される人工内耳の話も率
直に出してくる。国民性の違いかもしれませんけど、そこに感心します。

  次に、人工内耳に対する冷静な評価です。日本では人工内耳の話は両極端に
話されます。「聞こえるようになってとても嬉しい」「こんなにいい方法を試
さないのは損だ」という賛辞と、「医学の実験台にされているだけだ」「聾者
を絶滅させるのか」という批判。それに対して、ERは冷静です。手術にリスク
があることと、判定基準があって使えないと言うこと。アメリカの医療は保険
の関係もあり、すごくコストに厳しいのですが、それにしても補聴器の方を先
に薦めるあたりに、アメリカ医療の水準の高さを感じます。
  同時に、手話へ盲目的な賛辞がないことにも感心しました。手話だけがピッ
クアップされる日本のドラマに対して、えらい差があると思いませんか。

  この後、子供の扱いになれないベントン先生が言語療法に戸惑う姿が描かれ
ます。これから、どうやって手話がこのドラマに入ってくるのか注目です。

----------------------------------------------------------------------

  今回は、ドラマと手話の話を見てきました。手話をネタにしていると批判さ
れがちなドラマも多いのですが、そんな事を言ったら、今回の「語ろうか」は
そんなドラマをネタにしているのですから、もっとひどいのかも。それはさて
おき、ドラマが手話を世間に広めた功績は大きいと思います。「星の金貨」前
では、手話で話をすると、もの珍しそうに見られたり、不自然に見まいとする
ような状況を肌で感じたものですが、「星の金貨」後では、鈍感な私でさえ、
雰囲気が変わったとわかりました。自然に社会の中にとけ込んでいくきっかけ
になったのは、すごい良いことだと思います。

  ただ、最近では、逆に手話を取り上げることに手話を使う側が必要以上に騒
ぎすぎているような気もします。現在放送されている「新・星の金貨」も、世
間では野島伸司流のわけわからんブッ飛んだドラマとして受け止められている
のに、手話が出てくることを異様に注目している人がいます。気持ちはわから
んでもないのですが、もうそろそろ、ほっといてあげれば、とも思います。だ
いたい沖縄で友達もなく、外部との交流もなく育った人が、全国共通の手話を
使えるというのは、かなり不思議な話です。

----------------------------------------------------------------------

  連休中、事故には気をつけましょう。
  では、また来週。

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』 を利用して
発行しています。http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000038270)
----------------------------------------------------------------------
■登録/解除の方法
  メールマガジン「語ろうか、手話について」は、以下のURLよりいつでも
  登録/解除可能です。
    http://www.mag2.com/m/0000038270.htm
    http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/
■バックナンバーの参照
    http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/
    http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000038270
■掲示板
    http://www64.tcup.com/6411/tokudama.html
    補助的な情報を掲載しています。編集者への連絡はMailをお使い下さい。
■苦情、文句、提案、意見など
    Subjectに[kataro]を入れて、以下のアドレスまでMailをお送り下さい。
    個別には返事ができないかもしれませんので、ご了承下さい。
      tokudama@rr.iij4u.or.jp
======================================================================
○メールマガジン「語ろうか、手話について」(週1回以上 発行)

発行: 手話サークル活性化推進対策資料室
編集: 徳田昌晃
協力: 五里、おじゃまる子(ヘッダ作成)
発行システム: インターネットの本屋さん『まぐまぐ』http://www.mag2.com/
マガジンID: 0000038270

■意見、文句、提案、投稿は、居住都道府県名と氏名(匿名可)を添えて
  tokudama@rr.iij4u.or.jpまで送って下さい。
■メールマガジン「語ろうか、手話について」は、著作権は徳田昌晃に所属し
  ますが、基本的には転載・複写自由です。有効にご活用下さい。
======================================================================