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             _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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No. 69                                              2002年 1月16日発行
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

  皆さん、こんにちは。

  成人式も終わりました。新成人の皆様、おめでとうございます。成人になる
と選挙権も行使できます。是非、投票は欠席せずに参加してください。

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  今回は先週の聴覚障害者と参政権の続きです。

  まず、政見放送についての話から始めます。なお、参考文献は前回の書籍と
日聴紙を追加します。

参考文献
  [1] 手話通訳問題研究 No.77 (2001 Nov.) 全国手話通訳問題研究会
  [2] 障害を持つ人々と参政権 井上英夫編 法律文化社
  [3] 日本聴力障害新聞 2001年5月1日号
  [4] 日本聴力障害新聞 2001年6月1日号

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  先週の「語ろうか」で引用した政見放送研究会が出した報告書には、2つの
ポイントがあると思います。

 1. 手話通訳の意訳の問題は、立候補者の責任で処理すればよい。
 2. 字幕は省略が起きるので、実現は困難である。

  ある意味統一性のない答えなのですが、手話はOK、字幕はNGというのが研究
会の報告です。

  まず報告書には手話通訳者が十分いることを上げています。これは手話通訳
奉仕員養成事業の成果とも言えるでしょう。次に手話通訳で行われるであろう
問題は立候補者の責任、つまり表現であると結論づけて手話通訳をつける事は
問題ないとしています。

  結論としては、我々の望んだとおりになったのですが、よくよく読んでいる
といまいち説得力に欠くところはあります。例えば、手話通訳者の数ですが、
今でも手話通訳士のほとんどは大都市に集中しているので、地方では数が不足
気味です。私がいる千葉は、まだ一桁です。隣の都県から連れてこなければ、
まかなえません。そういった状況には目をつぶった報告書となっています。
  それから手話についての言及がいまひとつです。ほとんどの法律は英訳がな
されており、英語-日本語間の変換を法律では黙認しています。それを手話で
わざわざ問題にしているのはなぜか、ということは語彙の話だけです。通訳を
行う上で、どんな言語であっても、意訳、省略、補足があるのは当然です。こ
のあたりに全く言及していないのは、少し不満ではあります。

  しかし、とにかく、報告は出され、政見放送に手話通訳がつくことになりま
した。但し、手話通訳士の数の問題があると言うことで、参議院の比例代表選
挙のみです。1995年のことです。また、つける、つけないは党に任されるので
つけない党もありました。そして報告書通り、字幕は今に至っても、まったく
付けられていません。

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  あまり法律の細かいことがよくわからないし、政見放送は前にも述べた通り
変な政党のを見るぐらいなので、実態もよくわからないので、間違えたことを
言わないうちに、ここらへんで原稿を終わりにしますが、最後に個人的に小耳
に挟んだ事柄などを4つほどあげておきます。

  政見放送の手話通訳は日本手話通訳士協会が中心になって、支持政党に関係
なくつけられます。だから「私は自民党を支持しているのに、公明党の通訳に
なってしまった」ということはよくあるそうです。でも、そこは仕事でやるわ
けですから、割り切らなければなりません。逆に言えば、見る方も割り切って
みなければなりません。「○○さんが××党の通訳をやっていたから、××党
に投票しよう」なんてのは論外です。
  でも、近いことをちょっと前にあるMLで目にかけました。それは、「○○さ
んが、××党の政見放送をしていました。」というMailでした。そういうこと
は、選挙の公平さから考えて、言うべきではないと思います。この発言は、手
話通訳者当人に迷惑だし、他の政党への公平さも欠いています。もっとも、私
は、このような発言をした人を、まだ1人しか見ていないのは、不幸中の幸い
かもしれません。

  NHKの手話ニュースが始まった時にもあった話なのですが、政見放送の手話
通訳でもらえる給金というのは、普通の手話通訳と比べてすごい高いらしいで
す。普通の手話通訳は1時間1000〜2500円程度らしいですから、通常がすごく
少ないのですけど、とにかくとても多いらしくて、手話通訳者にとっては難し
い通訳ではありますが、嬉しい仕事となっているみたいです。

  参考文献[1]で、日本手話通訳士協会事務局の山田京子氏が指摘しているの
ですが、立ち会い演説会で一度は認めた手話通訳を公職選挙法の改正で止めて
しまうことに、国の考え方の矛盾を感じます。以前、民法11条の時に言った思
考停止現象が見て取れます。よりよく社会を変えるため、各自が考える努力が
必要なんだなと思わされます。

  前回の参議院選で、民主党の発案から、街頭演説でも手話通訳を付けられる
ようにするため、手話通訳者を運動員の一員として、アルバイト代を払えるよ
うになりました。でも、これは手話通訳者を運動員とみなすということ。これ
は政見放送の時と違い、明確に支持政党であることになってしまいます。中に
は仕事として割り切れる人もいるでしょうけど、お金の流れを見ると、そうで
はないように見えます。民主党は、良かれと思ってやったことだと思うのです
が、実は、手話通訳者への配慮が足りない政策だなぁ、と思います。民主党の
障害者を考えた政策は、メルマガなどでの配慮は感じるのですが、あの通訳者
へのアルバイト代だけは、公的な保障として、なんとかして欲しいものです。

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  では、次に立候補側の問題を取り上げます。

  こちらは、政見放送とは逆の様相を見せていて、昔と比べて壁はなくなって
きています。元々、法曹関係の法律は、医療関係と違って「聴覚障害者は○○
できない」といった制約はありません。しかし、社会的なバリアが壁となって
いる状況があります。壁と言うより、溝ですかね。マラリア海溝のように、深
い溝です。

  参考文献[2]に取り上げられている一つの事件があります。1986年のことで
す。参議院選挙で、東京選挙区から渡辺完一氏が雑民党の候補として立候補す
ることになりました。氏はNHKや民放各社に手話通訳及び字幕の要請をしてい
たのですが自治省が認めなかったため、氏は政見放送に単独で臨むことになり
ました。政見放送にはテレビとラジオがあるそうです。(私はラジオの政見放
送は聞いたことがないので、詳しいことは聞かないで下さいな。)氏はテレビ
の政見放送も、ラジオの政見放送も手話で訴えたそうです。当然、ラジオは無
音です。その時の様子が参考文献[2]の中の朝日新聞の記事として載っていま
すので引用します。

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  [朝日新聞1986年6月24日]
    法曹は午前5時12分すぎから、経歴を30秒流したあと、渡辺氏の政見放
  送が4分15秒流れた。しかし、ラジオからは、発話する際の「ウー」とい
  う声が断続的に聞こえただけで、ラジオを聴いただけでは何を言っている
  か全くわからなかった。
    このためTBSは、公選法による政見放送実施規定に決まっている説明の
  ほかに、独自の判断で「手話による政見」という言葉を入れ、さらに、「
  ただいまの政見放送は公選法の規定により、手話通訳者を介することなく
  手話による政見をそのまま放送しました」とお知らせをつけ、約5分の放
  送を終わった。
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  まさに放送事故(ラジオでは何秒間か無音があると「放送事故」と言い、異
常事態となります。)とも言える無言放送があったのです。

  その後、先週と今回の前半で述べたとおり、今では、選挙活動で手話を付け
られることに抵抗が無くなってきました。その成果、というか、世の中の流れ
とも言うべき出来事が昨年ありました。2001年4月22日の長野県北安曇郡白馬
村での村会議員選挙(定数16、立候補19人)に、聴覚障害者の桜井清枝さんが3
位の得票で当選します。参考文献[3]によれば、桜井さんは5歳の時に失聴し、
会派は基本的に手話を使うそうで、現在、夫婦でロッジを経営しています。
  選挙で桜井さんを擁立したのは「明るい白馬を目指すネットワーク」で、参
考文献[2]によれば、この団体として立候補者を出すことは決まっていたが誰
を押すか思案していたところ、桜井さんに白羽を矢を立てたようです。桜井さ
んは地元手話サークルにも通い、白馬高校の福祉コースでも手話を教えるなど
地元活動にも熱心で、そのため色々な人のつながりがあったようで、これも立
候補に擁立された要因ではないかと思われます。その結果、第3位での当選。
  今後の情報保障について、参考文献[4]によれば、村長のコメントとして「
桜井さんが十分な議員活動ができるよう、費用については6月の補正予算で予
算措置をする予定」としています。また、派遣について「村レベルでの派遣シ
ステムでは限界がある。より広範囲な地域から手話通訳士の方々を確保できる
ようにするためにも、県や国レベルでシステムを作っていただけるよう要望し
ていきたい。」とコメントしています。

  今後、聴覚障害者の議員も誕生していくのかなぁ、と思う出来事ですが、村
長のコメントからしても、情報保障の難しさが感じられます。臨時村議会では
長野市、飯野市、松川村から手話通訳者を派遣し、要約筆記として「明るい白
馬を目指すネットワーク」から協力者が出たそうで、これからどうするかが懸
案になるでしょう。他にも議員活動自体のことなど、色々な話があるとは思う
のですが、ちと、私には状況がつかめないので、最後に参考文献[2]の中から
一番気になった文を引用して終わりにします。

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    当選した途端、時の人となった彼女のもとには数々のインタビューが
  あった。「たくさんありましたね。でも本質に迫るような質問はなかっ
  たと思います。つまりニュースというのは、珍しいと思えばインタビュー
  するし、よくも悪くも聞こえない人が当選して気持ちは嬉しいですかと
  か今後の豊富はとか、そういうことが多かったです。(中略)『嬉しいで
  すか』と聞かれたら嬉しいですよとか、そんな取材でした。(中略)メモ
  に書いてインタビューをしてくれるとか、私が話す事を待ってくれると
  か、そんな余裕がみなさんありませんね。一般の人と同じような感じで
  通訳の人が返事をするということもありました。私の顔を見て話をする
  のではなく、通訳の人にしゃべっているんですね。はがゆいものはあり
  ましたね。(中略)聞こえないという障害を少しでもわかっていたら、ど
  ういう質問のやり方がいいのかと事前に少しでも勉強して質問をすると
  か、そういうふうにやって欲しい。そういう応用の働きがあってもいい
  と思いました。」
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  余談ですが、会社の手話サークルで、2月に、この桜井さんのロッジへ行く
という企画があるのですが、2月は全通研の討論集会などで出費が相次ぐので
残念ながら、私は行けそうにないのです。ということで、この話は、ここで、
おしまいです。読者の方に白馬の方がいたら、補足などお願いしますね。

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  では、また来週。

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