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             _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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No. 74                                              2002年 3月 6日発行
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

  皆さん、こんにちは。

  今週の「語ろうか」は、先日、私が担当した例会の様子を報告します。これ
は会社の手話サークルでの例会で、報告書を書かなければならなかったので、
それを膨らませる形で原稿にしております。だから、長いけど、楽して書いて
います。(諸般の事情でしばらく楽させていただきます。ごめんなさーい。)

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  「手話サークルの目的は?」なんて話になると、たいてい学習が後回しにさ
れがちなんですけど、私は手話サークルは手話の勉強の場であっても欲しいと
思います。もちろん、聴覚障害者への理解の場であったり、交流の場であった
り、ろう運動の拠点であったりすれば、それはとてもいいことなんですけど、
だからといって、手話そのものの技術的な勉強をおざなりにしていいとは思わ
ないのです。交流を優先させるとか、ろう者との会話から手話を習得するのも
いいとは思いますけど、ある程度早く手話を身につけるには、技術的な勉強、
つまり講習会のようなものをサークルでも行うのは必要だと考えるわけです。

  そういうことで、個人的には手話の学習に力を入れていますが、なかなかう
まくいくものでもありません。No.61,62,64で試作テキストを紹介しましたが
テキストさえあれば良いわけでもなく、その時のろう者の人数や参加者の手話
の習熟度などにより、うまくいったりいかなかったりです。

  それでも、そういった「時と場合」による要因をできるだけ排除して、高い
レベルの学習会を開こうとするのですが、これはなかなか難しいことです。「
勉強については学校に学べ」ということで、昔、教育実習をやっていた記憶を
たぐり寄せるのですが、あの時は時間をかけて、指導案を書いて、それを担当
教官にチェックしてもらって、実習して、その後復習して、なんとかこなして
たんだよなぁ、と思いだすと、今の手話サークルで、すぐに役立てるような感
じではありません。もっとも、全く無駄というわけでもないのですが。これに
ついては、タイムリーな記事を発見しました。朝日新聞が発行している週刊誌
「アエラ」の記事で、総合教育に関するものです。
  http://www.asahi.com/column/aic/Mon/d_aera/20020304.html
以前、ここで話題にした手話に関する総合教育の話ではなくて、教育現場での
教師がいかに総合教育に取り組んでいるかという記事です。奈良女子大文学部
付属小では、生徒が洗濯板を使った洗濯をして、昔の生活様式について発表す
るということを総合教育でやっているそうで、これがかなり大成功な事例とし
て注目を集めているそうです。それに対して、これを見学した教師の感想が「
ここの生徒のレベルが高すぎる。うちの学校では基本的な読み書きさえままな
らないのに。」とぼやいたそうです。結構、そうやって嘆いている先生や、ど
うやっていいのかわからない先生が多いらしくて、NHKのプロジェクトXを見せ
て終わり、とか、近くに住む外国人を招いて話を聞いて終わり、とかいう内容
が多い、と記事では伝えています。つまり、話を聞いただけで国際交流といえ
るのか、それが学習なのか、という疑問です。その他にも、生徒に自由にテー
マを選ばせたら、ゲームやアニメのことを選んで、しかもインターネットで探
してきた文章をはりつけて終わりにする生徒が多い、という話も紹介していま
す。それが本当に文科省の目指す総合学習のあるべき姿なのか、と記事では訴
えています。

  手話サークルの学習も、こんな側面があると思うのです。手話の学習と言っ
ても、どうやって勉強すれば手話がうまくなるのかわからない。だから、ろう
者との交流でしか手話を習得できないとか、それよりもろう者の理解の方が大
切だと強調してしまうとか。でも、手話サークルにおける「手話」は、基本的
な読み書きレベルの話で、その基本ができないと先に進めないと思うのです。
何か工夫するなり、体系づけるなりして、手話を学習していかないと手話サー
クルとしての力が落ちてしまうように感じるんです。

  もっとも、教育結果というのは評価が難しく、ある意味、自己満足でしかな
いのですが、先日、私が担当した例会が、久しぶりにかなりうまくいって、司
会として満足して、準備もお手軽で充実感たっぷりだし、それに逆に自分も勉
強させてもらったし、ということで、その様子を今回ご紹介します。皆さんの
参考になればと思います。なお、すでに記憶が曖昧なので、細かいところで、
「かなり」脚色しています。紹介ではありますが、実際の様子とは違うかもし
れませんので、その点は御了承下さい。(ここに登場するのは実在の人物では
ありますが、脚色の部分がかなりあるので、本人そのままのセリフではないこ
とも御了承下さい。)

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その時に使ったテキストは、No.64で取り上げた感情表現のリストです。
  http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/bm0064.html
担当者が私と、もう一人いたので、打ち合わせとして、以下の文章を作りまし
た。
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  当日の進め方
  以下、「」はセリフです。

  「一つの日本語にも、色々な手話の表現方法があります。今日は、それを
  会話形式で実感してもらいながら、学んで欲しいと思います。」
  「例えば、『嬉しい』という様子を手話で表してみましょう。『嬉しい』
  にも色々な「嬉しい」があると思います。例えば..」
    - 宝くじが当たった! 嬉しい。
    - ダイエットが成功して2kgやせた。嬉しい。
    - 母の日で、子供からカーネーションをもらった。嬉しい。
    - やっとTOEICで600点を越えた。嬉しい。
      (これを各自で考えてやってもらう。状況説明からやってもらう。宝
       くじの場合、「くじを取り出して新聞を見て、当たって、喜ぶ」と
       いう感じ。)
  「『嬉しい』だけを考えても、色々な場面により、色々な表現に変わる
  ように思います。宝くじの場合、1万円当たったときと、1億円当たった
  ときでは表現が違うでしょう?」
    (各自で考えてもらう。)
  「では、以下順々に、一つの単語を出しますので、それをキーワードに
  自分で思いつく場面を想像して、それを手話で表現して下さい。」
  で、2の「いいねぇ」をテーマにして各自で色々と表現してもらいます。
  手話というよりジェスチャーになるかも。それはそれでOK! パントマイ
  ム的で構わないので、気持ちを表現できるかどうかを焦点にして進めま
  す。必ずしも違うとは限らないし、違うかもしれない。人によっては違
  うかもしれない。そんな点に気をつけながら、以下の項目を考えるよう
  に、参加者に促します。
    - 表すのが男と女だと違いがあるか?
    - 場所や時間、人が沢山いる時、少ない時、自分だけの時で違いはな
      いか?
    - 強い表現と弱い表現があるか?
    - 日本語だと同じ字になるけど、実は意味が異なる場合はないか?
  たぶん、「いいねぇ」だと、次のようなのが出てくるはず。
  -「今日、飲みに行かない?」「いいねぇ」
  -「あなたの今日のスーツ、いいわねぇ。あなたにぴったり」
      (いいわねぇ、になっているけど、これぐらいの揺らぎはOKとする)
  -「君の先日出した企画ね、なかなかいいねぇ。ただ、少し修正が必要
   だと思うんだ。」
  -「彼女、今度、沖縄に旅行だって。いいねぇ。」
       (日本語でも意味が異なっている例)
  こんな感じでいかがでしょう? 1時間で5つもできれば十分だと思います。
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準備したのは、これだけ。テキストは当日ホワイトボードに書けばいいので、
ほとんど頭の中だけの準備です。

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  当日の参加者は、私を含めて4人だけ。(もう一人の担当者も欠席。)私以外
は、初心者のBさん、ろう者のSさんとKさん。2人とも口話がかなりできますが
Sさんは手話が主体、Kさんは口話が主体という感じです。

  まず、今日のテーマが「手話の表現を広げる」ということを話した後、すぐ
に具体的な例に入りました。

以下、Tが私、B、S、Kは、それぞれ上記の人物のセリフを示します。

T:「嬉しい」という感情の表現を手話で表す時、「嬉しい」という手話があり
  ますけど、場合によっては、色々あると思うんですよ。例えば、宝くじの場
  合、1万円当たった時と、10万円の時、100万円の時、1億円の時では違うと
  思うのですけど、宝くじって当たったことあります?
S:300円当たったことがある。
K:それって、誰でも当たる分だよ。
T:忘れてました。宝くじの手話は「宝/チケット」ね。
  (これはBさん向けへの解説)
S:最近は「こする/紙」もあるよね。
T:なるほど。スクラッチタイプね。私も宝くじは買ったことがありませんけど
  当たった時のことを想像して、ちょっと表現してくれませんか。では、Sさ
  ん、1万円の時。
S:「嬉しい」
T:10万円の時は?
S:(顔は「うれしー!」と叫んでいる感じで)「嬉しい」
T:100万円の時は?
S:(さっきよりも強く)「嬉しい」
T:1億円
S:(とても強く)「嬉しい」
K:あんまり変わってないよー。
T:うん、1億の時は、結構違うんじゃないかなぁ。
B:私なら「バタンキュー」ですかね。
T:あぁ、死んじゃうんですね。嬉しすぎて。じゃ、Kさん、10万円当たったら
  どうします?
K:「嬉しい」
T:では、100万円では?
K:「手をひらひら」
T:なるほど、踊っちゃうんですね。それでは1億円では?
K:うーん。「手をひらひら/配る」かな。
T:気前いいですね。配っちゃうんですか。こんな感じで、同じ宝くじに当たる
  でも、金額により嬉しさの表現方法は変わってきますよね。Bさん、OK?
  「嬉しい」は他にもあると思うんですよ。例えば、さっきKさんがちょっと
  やったけど、手を叩くなんてのは手話ではありませんけど、一般的に嬉しい
  時に誰もがやりますよね。そんな感じで「嬉しい」という表現も時と場合に
  よっては、色々あると言うことを頭に留めて、今日はみんなで考えていきた
  いと思います。

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T:では、次の表現。「2.いいねぇ」
  「今日、飲みに行かない?」「いいねぇ」これは、どう表現します? Sさん。
S:「今日/ビール/行く」「良い」
T:そうでしょうね。今、ふと思ったのですけど、手話では「良い」と「構わな
  い」が近い意味で使いますよね。Sさん、今の文で「構わない」を使うこと
  はあります?
S:ある。えーと。友達同士なら「良い」で、普段あまり会わない人とだと「構
  わない」になるかな。
T:Kさんは?
K:えーと、あんまり気にしたことない。「構わない」かな。
B:それは「行ってもいい」という意味なんですか?
T:というよりは、手話の「構わない」の意味が幅広いんですよ。英語との対応
  で考えると「good」と「良い」、「can」と「構わない」のように健聴者は
  感じるのですけど、「構わない」はかなり「good」の場面でも使うんです。
  そんな感じしません? Sさん。
S:そうだね。
T:日本語に訳すと「構わない」で少し失礼な感じがするけど、手話の場合はあ
  まりそうでもないみたいです。
  と、話がそれましたけど「いいねぇ」は他にも表現があると思います。例え
  ば「あなた/服/良い」。「良い」でもいいかもしれないけど、「合う」とい
  うのもあるでしょ。
K:「あなたにぴったりよ」って意味ね。
S:なるほど。
T:そう言うときは、どう? 「合う」って使います? 「良い」を使います? 個人
  的な感覚を聞かせて欲しいのですけど、Sさん。
S:うーん、両方あるかな。

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T:それでは、こんな例文はどうでしょう?
  (ホワイトボードに書く。)

    君の先日出した企画ね、なかなかいいねぇ。
    ただ、少し修正が必要だと思うんだ。

S:「あなた/昨日/出した/企画/良い/しかし/直す/必要」
T:そうですね。少し「良い」が弱いんですよね。この文章、「良い」だけど全
  部が良いではなく、少し否定する気持ちがある。Sさんの場合「良い」を少
  し弱めた表現になってましたよね。Bさん、OK?
B:ちょっとよくわからなかったです。
T:それじゃ、Sさん、「良い」という表現の強いのと、弱いのをやってもらえ
  ます?
S:強い「良い」は、こんな感じ。(手が前に出る)
  弱い「良い」は、こんな感じ。(手首を小刻みに振る)
T:Kさんは、どうやる?
K:(少し間をあけて)「良い」かな?
T:なるほど。間を空けるわけね。ちょっと不確かな感じを表情と一緒に表現す
  るわけね。それもよく使いますよね。

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T:それでは、今度はこれ。
  (ホワイトボードに書く。)

    彼女、今度、沖縄に旅行だって。いいねぇ。

  日本語でも、完全に意味が違ってしまってますけど、表面上は「いいねぇ」
  ですよね。これはどうします? Kさん。
K:「彼女/次/沖縄/旅行/良い/ねーーー」
B:今の、「ねーー」って何ですか?
T:指文字の「ね」です。それが、ズーと下に動かすことで、強調するみたいな
  感じです。私も結構使うかな、「ねーー」って表現。手話というより、冗談
  みたいな感じですけど。Sさんはどう表現します?
S:「羨ましい」だな。
T:そうですね。意味から考えると、まさにそうですね。「羨ましい」ですね。
  BさんOK?
B:これが「羨ましい」ですか。
T:そう。口からデレーとした感じね。「羨ましい」は、単語リストの中に入っ
  ているから、また後で勉強しましょう。
  あと、他に「いいねぇ」ですけど、こんな場面では。きれいな女性が歩いて
  いて、それを見て「いいねぇ」って時。Sさん。
S:(横をつつく動作)(指さし)「魅力」
B:え、今の何ですか?
T:「魅力」って手話ですね。こう、目が引きつけられるんですよ。ぐぐーっ
  て。
S:こう、綺麗な人が歩いていて、それを友達と見ているわけ。あれ見ろよ、ぐ
  ぐぐーって、わけ。
T:この「ぐぐぐー」が「いいねぇ」って意味になっちゃうんですよね。
  男が女性を見る時は、そうなるけど、女性が男性を見る時はどうなんでしょ
  う? Kさん。
K:「かっこいい」かなぁ。「魅力」ってあんまり使わないような。私だけかも
  しれないけど。
B:かっこいいって?
T:これが「かっこいい」って手話。
B:これって、語源は何なんでしょう?
T:さぁ? 歌舞伎の振りからって話もありますけど、昔から使われている手話の  
  語源って、結局よくわからなかったりしますからね。
  Kさんは、かっこいいってやるわけですね。「魅力」とか「注目する」なん
  てやらない? 芸能人を見て、「きゃー素敵」とか。
K:(笑) 私はあんまり。そう言えば、先日、職場にスケートの清水選手が来て
  みんなで写真を撮って「注目」って感じだった。

  (ひとしきり、清水選手の話で盛り上がる)
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  結構長くなったので、今回はここまで。時間も、この時でだいたい30分ぐら
いかかっています。残りの部分と、私が心がけた点は次回に述べます。

  では、また来週。

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