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             _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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No. 75                                              2002年 3月13日発行
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

  皆さん、こんにちは。

  いつもなら5回区切りには、私の昔話をするのですが、もうネタ切れなので
今週は先週に引き続き、手話サークルでの手話技術の学習の模様をお送りしま
す。ただ、すでに2週間ほど前の出来事で、だんだんと記憶があやふやになっ
ているので、今週は先週よりも脚色しています。(忘れた部分を適当につない
でいます。)ですから、これは実況中継というよりは、演劇の台本みたいに
なってしまっています。ですから、登場する人も一応実在のモデルはいます
が、(たぶん)かなり変わってしまっていることを御了承下さい。

  それから、この内容は、全部日本語で話しているような印象がありますが、
実際は、ほとんど手話で話しています。そこに翻訳というギャップがあるわけ
ですから、以下、あくまでも手話学習「進行方法」の模擬実験ぐらいに考えて
下さい。

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(以下、司会をT、ろう者をSとK、手話の初心者をBと表記します。)

T:では、次。「びっくりした」
  手話では「びっくり」の表現がいくつかありますけど、それをあげてもらえ
  ます?
S:(胸に手を当てる)          -> (1)
B:(手のひらから2本指を離す) -> (2)
K:(両手を上げる)            -> (3)
S:(目玉が飛び出る)          -> (4)

T:この4つぐらいですかね。他にもあるかもしれませんけど、それはおいおい
  追加していくとして、これらの使い分けについて考えてみたいと思います。
  まず、(1)の表現ですけど、これはどんな時に使いますか?
S:例文はないの?
T:例文ですか? (うーん、困った。準備してこなかったなぁ。) そうですね、
  じゃ、びっくり箱を開けた時、どれを使います?
S:(1)かなぁ。
T:それじゃ、道を歩いていて、自転車がすぐ近くをすり抜けて走っていって
  びっくりした時は?
S:(1)か、もしくは、腕を反対側に振り上げるような動き。
K:そうそう。
T:あと、びっくりする事と言えば... 知り合いが亡くなったと聞かされたとき
  は?
S:顔だけで表現するかな。「えっ」て、顔。
T:そうですねぇ。確かに。手話ではないかもしれないけど、それが自然な表現
  ですよね。
  それじゃ、久しぶりに会った友達から「私、結婚するんだ」と言われた時、
  どの「びっくりした」を使います?
S:(指文字「え」を肩の位置にもってくる)
K:両手でやるかも。
B:指の形に意味があるんですか?
T:これ、指文字の「え」なんですよ。びっくりして「えっ!」ってわけです。
  他にびっくりしたの例文が思いつかないんですけど、それじゃ、強弱から考
  えて、強い表現と弱い表現ってあると思うのですけど、この4つの中で一番
  びっくりしたのはどれですかね?
S:(4)。
K:(4)。
T:弱いのは?
S:(1)、いや(3)かなぁ。
K:(3)だと思う。
T:(2)ってどうですかね?
K:あんまり使わないね。
B:何か特定の時に使うとか、そういうわけでもないのですか?
T:初級講習会で習う時とか、手話の本に載っているのは(2)ですけど、実際に
  使う場面となると少ないかもしれませんねぇ。
S:そうだね。
K:何にでも使えるかもしれない。でも、あんまり使わない。
S:結局、表情が大切なんだよ。
T:びっくり、というのは特に顔に現れるから、表情での表現が効果的でしょう
  ね。
  他に意見あります?
B:今の手話なんですか?
T:「意見」ですか? 指文字で「い」を作って、頭の上でひねるんです。
  似たような手話がありますよね。「イメージ」とか。他にありますか?
K:「参考」は?
T:そうそう。どれも新しい手話ですよね。指文字を使った手話。全日本ろうあ
  連盟という団体に日本手話研究所というところがあって、そこが「新しい手
  話」という本を出しているのですが、その中に結構あるんです。他には
  「え」+「病気」で「エイズ」とか、「き」+「計画」で「企画」、「き」+
  「待つ」で「期待」とか。
  さて、話を戻しますけど「サプライズパーティー」ってわかります?
K:あぁ、本人だけに内緒にしておいて、お祝いするパーティーでしょ。
T:そう。この「サプライズ」って「びっくり」の意味ですけど、これはどう表
  現します?
K:「おめでとう」かなぁ。あえて、びっくりとは使わないような感じがする。

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T:では、今日の時間も残り少なくなったので、これで最後。「ずるいなぁ。」
  一般的な手話では、どう表現します?
S:(2本指で頬をこする)
T:私も、それぐらいしか思いつかないのですけど、他にあります?
S:うーん、思いつかない。
  (全員でしばし考える)
T:こんな例文では?

  (ホワイトボードに書く)
  (一人だけ抜け駆けして)彼女と結婚するなんて、ずるいなぁ。

  ちょっと羨ましいという気持ちが入っていると思うので、普通のずるいとは
  違うように思いますけど。
S:でも、やっぱり、手話は同じだよ。
T:そうですか。
  じゃ、子供と大人では、どうでしょう?

  (ホワイトボードに書く)
  お兄ちゃんばっかり、買ってもらって、ずるい。

K:だだをこねるって感じかな。いやいや、をするような動作になるかも。
S:なるほど。「わがまま」って手話に似ているかな。
K:子供の場合、手話をそんなに知っているわけじゃないから、身振りになると
  思うけど、表現としては違うものになると思う。

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と、実況中継はここまで。この時はとても人数が少ないと言うこともありまし
たが、自分の担当では、久しぶりに会心の出来の例会となりました。

私が担当で例会を仕切る時は、いくつか気をつけている項目があります。

1. 話が脱線したら、それに身を任せる。

  先週の例会の模様の中にあったのですが、清水選手の話は、結構な盛り上が
りを見せて「いつの話?」「写真はないのか?」とか、本来の「いいねぇ」の手
話の勉強とは無関係な話が続きました。でも、こういう脱線は、結構役に立つ
と思うのです。
  そもそも、いつも例会のネタに困っているような私にとってみれば、ネタを
出さずに話が盛り上がるというのは、とっても嬉しい状況です。みんなは楽し
く話をしているのだから、わざわざ止める必要はないでしょうし、ネタが残れ
ば来週の準備も楽になります。
  それに、このように話が盛り上がると言うことは、それだけ日常の自然な手
話が出てきているわけで、それこそ実践的な手話の勉強になるわけです。なん
といっても、こういう時はろう者の手話が生き生きしています。これを生かさ
ずして、どうするのか、と思うわけです。

2. 極力脱線させる。

  あえて脱線させるという技を使うときもあります。「意見」から始まった指
文字を使った手話の話はまさに、これです。その日のテーマに沿って淡々と進
めていけば、ある程度体系立てて身に付くかもしれませんけど、人間の記憶っ
て、突発的なことがあった方が覚えやすい傾向があります。だから、脱線させ
て、そこでいくつかの手話を取り入れると、覚えやすいのではないかと、思う
わけです。
  「良い」と「構わない」の話もそうです。テーマに沿った学習も大切かもし
れませんけど、手話サークルなんですから、もっと気楽にやりたいものです。
言葉を学習するのに、一つの道はないはずで、いくらテーマを決めたとして
も、その周辺領域というものがあるはずです。そういうものは言葉を理解する
ための流れとしては必要なものだと思うのです。ネタとしては、あるテーマに
沿って教材を準備するわけですが、それはある瞬間を切り取ったに過ぎず、実
はその背景に膨大な情報が隠れていると思います。何かのテーマについて話を
していても、そういう背景や脇道に逸れた事を思い出したのなら、それは、そ
のテーマを理解する上でも必要な情報なのではないかと思うのです。ですから
「あっ、これの説明を忘れていた」とか、「ついでだから、これを説明してお
こう」と思ったら、私はわざと脱線させて、その話をすることにしています。

3. 語源の話はしない。

  手話が身振りから発展したのは明らかで、だから直感的に元になった動作が
わかりやすいということはあると思いますが、それを全て語源に結びつけるの
は危険だと思うのです。覚えやすいようにするための知識、例えばルート2を
覚える時の「ひとよひとよにひとみごろ」みたいな感覚なら、いいんですけ
ど、語源という学術的なものとして考えると、すごく危ないと思います。

  これは、日本手話学会会長で、手話技能検定協会の神田先生が教えてくれた
例を引用します。
  お湯を沸かす「やかん」の語源をご存じでしょうか。ある人は「矢が当たっ
てカンと音がしたから、やかん」という説をまことしやかに言っていたそうで
すが、実は「薬缶」という文字が示すとおり、薬の入った缶が元なんだそうで
す。「矢が当たってカン」のような説明を民間語源説と言って、これは学術的
には明らかに間違いな例です。
  「別に学術的に間違えていても、覚えやすくなればそれでいいじゃん」とい
う意見もあるでしょう。それは「ひとよひとよにひとみごろ」みたいなもので
語源とは違うものでしょう。
  「新潟」という手話があります。私は「地震」が語源だと習ったのですが、
なんか変だなぁ、と思っていました。というのは、新潟での強い地震が思い出
せなかったからです。調べてみると「新潟地震」と言われる強い地震が1964年
にあったそうですが、死者は26名です。そんな地震を元に手話を作るでしょう
か? 語源にするなら、関東大震災ぐらいすごい地震でないと根拠として弱いよ
うな気がします。
  その後、あちこちで聞いたところ、「新潟」の手話の語源には、他にも「佐
渡」の島の形とか、港に出入りする船の様子、など色々な説があるそうです。
たぶん「地震」は典型的な民間語源説でしょう。そういうのを流布するのはい
かがなものかな、と思います。
  というわけで、私は意図的に語源の話はカットしてます。専門家でないから
根拠のない話はしないというだけの理由です。

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  言うは易し、行うは難しで、なかなかうまくいくことはないのですが、私が
担当した時は、こんなことに気をつけながら、学習会をしています。

  それにしても、この時はとてもドキドキするような発見もありました。それ
は「びっくりした」の表現の時です。普通の講習会や本に載っている「びっく
りした」の2本指で人間が飛び跳ねる表現される、あの表現。あれは実はそん
なに使わないということです。これは若い人だけの傾向かもしれませんが、個
人的には「すげーことを発見しちまった!」という気持ちになりました。なん
といっても、あの「はじめての手話」でろう者的な手話としての例文として、
この「びっくりした」が使われているんですけど、その手話があんまり使われ
ていないんですから。ちょっと、考えてみたくなる傾向です。

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  今回の「語ろうか」はここまで。今回の登場人物には、今回の「語ろうか」
の記事について知らせていないのですが、匿名だからいいかぁ、と載せてしま
いました。もし、支障があったらごめんなさい。みなさんも、このあたりは詮
索しないでくださいな。匿名の3人に深く感謝します。

  来週は、すみませんが、原稿が間に合いそうにないので、短い増刊号という
ことになりそうです。では、また来週。

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