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             _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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No. 104                                             2005年 6月15日発行
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

  こんにちは、ガンダムの映画を見てきた徳田です。
  私が住んでいる町にも、こんなにアキバ系の人がいたんだぁ、と思うぐらい
同じような雰囲気を持った人が集まっていました。えぇ、えぇ、私もその一人
ですとも!

  さて、今年の日本手話学会の年次大会は千葉で行われるそうです。特別講演
は参加費無料(それ以外は有料)なので、興味ある方はどうぞご参加ください。
ちなみに、特別講演の内容は失語症から見た手話がテーマです。手話の失語症
というと、「手は脳について何を語るか」という本を思い浮かべますが、まさ
にその著者であるUrsula Bellugi先生による講演です。

  7月16日(土)10:00〜12:00、会場は千葉大学です。
  詳細は以下のページを参照してください。
  http://www.jasl.jp/info/taikai.htm

  この大会にはスタッフではない立場で関わっているので、たぶん、私も気楽
に参加しているはずです。

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  せっかく近くで開催される学会ですので、論文でも書いて発表したいと思い
ますが、今現在も、そして近未来も満足に時間が取れそうにない状態で、とて
もそんなことをしている余裕がありません。
  でも、実は、ずっと暖めておいたネタがあるんです。構想8年! なんですが
核の部分はあまりたいしたことはありませんし、論文にまで高める時間はない
し、このままにしておいても宝の持ち腐れ、ということで、気楽にメルマガで
公開することにしました。メルマガなんで、ついでに手話の工学研究に関して
つらつらと思うことを書いていきます。

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  では、長い前口上から入ります。

  私の属する工学分野では、論文は「はじめに」から始まって、研究背景と目
的を説明した後、何を立証したいかを説明し、そのためにどんな実験を行った
かを説明し、その実験の結果を示してから、考察、それがどんな結果なのかを
述べて、今後の課題などを書いて締めくくります。

  それぞれのステップはどれも重要ですが、特に重要なのは実験です。実験と
言っても、私のいる自然言語処理は薬品を混ぜ合わせるなんてやりませんでし
て、PCにデータを入れて、ぶんぶんプログラムを動かすことを実験と呼んでい
ます。

  実験をやるためには、プログラムを作るのは当然として、一番大変なのは
データ集めです。
  自然言語だと、対象言語のデータとして、文章を集める作業が該当します。
私の場合、翻訳がテーマなので、翻訳前の文章、そして翻訳後の正解となる文
章を集めて、さらに正解セットやらなんやらを作る手間があります。
  なんかの雑誌で見るような機械翻訳のレビューでは、重箱の隅をつつくよう
な極端な例文をいくつか食わせるだけで終わりますが、自然言語屋の論文とも
なれば、簡単な文から難しい文まで、数百の単位で食わせるのが当たり前で
す。
  逆に言えば、ここでいくつの文を食わせるかで論文の信頼度が変わってきま
す。いくらPCの性能が上がっても、ここに手作業で、手間暇をかけなければな
らない部分があるわけです。

  ネタがあるから理屈は書ける、関連研究はチェックしているから研究背景は
書けるとしても、肝心要の実験に手が出ない限り、論文としての体裁はあり得
ません。まぁ、ごまかして、実験抜きで論文にする手段がないわけではありま
せんが、趣味で研究していると公言している身分としては、出さなければ失業
するというようにせっぱ詰まっているわけで無し、そんな中途半端な物を出し
てどうすんのよ、と思うわけです。私のために自然言語処理学の質が低くなっ
てしまったら申し訳ないですし。

  というわけで、この「語ろうか」に書くのは、前口上と、理屈と、予想され
る結論の部分。つまり実験の部分以外を書いていきます。実験しないのに結論
が書けるのか? という疑問もあるとは思いますが、実験というのは理論を補強
するためにやるので、結果は予想通りになるのがベストです。もし、そうなら
なかったら、それはそれで解析して、改良ポイントを探し出す鍵になるだけで
す。
  いつまでもネタで取っておくのは世界の損失だろうし、かと言って、中途半
端に出すのは工学屋としてのプライドが許さない。その妥協案として、まぁ、
メルマガなら適当なことを書いても、いくらでも修正できるし、論文レベルの
責任追及もないからいいかな、というわけです。

  もし、卒論や修論に困っている方がいたら、どうぞご利用ください。最後に
謝辞で名前を載せてくれたら、別にパクられても文句言いませんから。セカン
ドオーサーなんて贅沢は言いません。

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  いよいよ本題。どうせ書くなら、文字数無視して、みっちり書こうと言うこ
とで、研究背景として、初心者向きの解説から始めます。

  私の研究テーマ、なんと手話の「自動翻訳」です。

  全通研で最も手話ができない代議員として、一生をまっとうするつもりの私
ですが、その割には研究の対象は、手話通訳です。
  いかに、自動的に日本語と手話を変換するかをテーマにしています。究極的
には、機械(たぶん、コンピュータ)が自動的に手話と日本語を翻訳・通訳し、
手話通訳者が失業するぐらいの世界を実現するのが目標です。

  もっとも、それは究極の目標で、日本語と英語での機械翻訳が、まだまだう
まくいっていないぐらいですから、そこに到達するには2回ぐらい生まれ変わ
らないとダメなんじゃないかと思います。アイデアとしては、あと数年もすれ
ば完成すると思います。が、実用となると、そこから数十年かけた地味な努力
が必要とも思うのです。そのあたりは、おいおい、お話していきますが、そん
な長期的なことはさておいても、目標を実現するためには、誰かが少しでも研
究していないと、いつまでも実現できません。

  この手の話をすると、結構反発を食らいます。今でも覚えているのは、日聴
紙の記事で、ある時、手話通訳システムの試作機の研究記事が載った時、全日
ろう連のコメントとして「手話は交流の言葉だから、こういうのはいかがなも
のか」と言ったニュアンスの反論が出てました。
  別に手話でなくても、日本語だって交流に使うのに、と思ったことを覚えて
います。

  言葉とは、誠に玄妙で、面白いもので、人間のあらゆる思考、感情を伝達し
記録として残すことができ、そして人の精神行動を支配し、行動のきっかけと
なります。しかし、その実体は単なる記号列、いや、肌で触れる実体など無い
「信号」にすぎないのです。こんなものに、我々は自らの思考はおろか、郷愁
までも込めることがあるのです。
  「交流の言葉」と言い出す気持ちはわからんでもないです。でも、そんなこ
だわりで手話を縛り付けていたら、それ以上の発展はなく、残されるのは衰退
への道です。日本語でも、時には方言にこだわりを見せることはあっても、職
場では仮名漢字変換というハイテク技術への適用を進めるように、言葉という
ものはあらゆるところに応用してこそ、使ってこそ、言葉なんです。

  自然言語処理は、工学的な言葉のひとつの応用形態です。恐れる必要も心配
する必要もなく、むしろ、これは大変面白い研究分野です。手話全体を把握し
ながらも、細かいことにもこだわれる、そして最終的には役にたつことを目指
しています。興味のある方は是非参戦して頂きたいと思います。

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  話の軌道を修正する意味で、手話を機械翻訳する意義についてお話ししま
す。

  手話を機械翻訳する意義とは何か? どんな利点があるのか、といいますと、
  機械できることは機械に任せた方が絶対楽だと思います。その上で、人間は
おいしいところだけ、つまみ食いすればいいと考えています。

  長年、手話通訳者が足りないと言われていますが、もし機械翻訳機器があれ
ば、日常必要となる通訳は機械にお任せできます。それに、24時間休み無く働
いてくれる機械なら頼むのも気楽です。いちいち頼むのに1割負担なんて考え
なくてもいいのです。相手は単なる機械なんですから。
  手話通訳者も、頸肩腕といった職業病から解放されます。

  そして、人間は手話サークルでの楽しいおしゃべりとか、そういう楽しいと
ころだけやれば、もっと手話の世界は充実すると思うのです。

  ワープロの例をあげるとわかりやすいですかね。色々な場面で、文書を書く
必要があると思いますが、ワープロのおかげでとても楽になりました。複製す
るのも楽、修正するのも楽。手書きだったら、何ページもの文章を作るだけで
手が疲れますし、字を間違えたら書き直しということもあったわけです。仕事
で契約文書をいくつも作るとき、昔だったらえらい緊張して慎重に、丁寧に、
字を綺麗に綺麗に書いたわけですが、今は誰もがワープロで楽々文書作成でき
ます。
  それに対して、個人的な手紙とか、楽しんで書く時はワープロを使わなけれ
ばいいわけです。

  手話も、単なる労力として必要される時は機械で、楽しんで使う時は自分で
やれば、いいと思いませんか?

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  さて、回り道で意義を語ったついでに、私の研究のスタンスについても言及
しておきます。

  この研究の目標は、先ほども述べたとおり究極は完全自動の通訳システムで
すが、いきなり最初からそこまでいけるとは思えません。というか、絶対無
理。
  ですから、まずは簡単な文章を確実に翻訳できるレベルを目指します。

  でも、こういうシステムは人間が難しい場合でこそ、力を発揮すべきもので
す。というのも、簡単な文しか通訳できないシステムなら、全然必要ないんで
す。「こんにちは。私の名前は○○です」ぐらいしかできないのなら、そんな
ことは人がやった方が印象もいいわけです。そして、自分の力ではとてもでき
ないような難しい通訳の必要が出てきた時、「助けて! ドラえもん」な時に、
ジャジャジャジャーンと使えるのが一番理想的です。

  簡単なレベルを目指すのはあくまでも技術的な理由です。最終目標はもっと
壮大なのです。ですから、これから説明する研究ネタも、すごく卑近なところ
とか、特殊な場合を述べているように見えるかもしれませんが、最終的には、
ごくごく自然に、人間が扱えるあらゆる範囲を処理できることを目指して、考
察していることに御注意ください。

  とにかく、最初は簡単なレベルを目指すとしても、とっととその上を目指し
たい。
  今まで話題になった手話の通訳システムは、郵便局の窓口での対応ができる
程度とか、ごくごく簡単なレベルしか対象になっていません。それはそれで最
初に一歩としては価値がありますが、そこから二歩目を踏み出すにはどうした
らよいか、そこを直近の目標にしたのが、この研究です。

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  前口上で、十分長くなってしまいましたので、今回はこのへんで。

  では、次回の語ろうかをお楽しみに。

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